宮城県図書館だより「ことばのうみ」第75号 2023年7月発行 テキスト版
おもな記事
巻頭エッセイ『本と恋とホントの私』 シンガーソングライター 萌江
私は正直、本を読むのが得意なタイプではありませんでした。「嫌い」ではないけど「得意」ではないのです。幼少期を思い出しても、家で静かに絵本を読んだりお絵描きをするより、男の子たちに混ざっておにごっこをしたり木に登ったりすることが多かった気がします。大人になった今も、デスクに向かう作業より、イベントで〝ほやのうた”を歌ったり、外で活動をする時間のほうが圧倒的に多いです。
そんな私でも夢中になって読んだ本があります。市川拓司さんの「こんなにも優しい、世界の終わりかた」という恋愛小説です。当時片想いをしていた人に勧められて読んだ本でした。「世界が終わるなら、誰に想いを伝えますか?」というキャッチコピーの本を勧めてくるなんて、私のことが好きに違いない! そう思っていましたが、現実は本のようにうまくはいかないものですね。
でも恋愛小説は、恋愛下手な私もいつかこんな風に愛される日が来るかもという希望を与えてくれます。それどころか本を読んでいる時間は、私が今そんな恋をしているかのような気持ちにさせてくれるのです。
本の中にはトキメキがたくさん詰まっています。いつか素敵な恋ができたその時には、一緒に恋愛小説を読むのが今の私の夢です。
著者紹介
萌江(もえ)
宮城県石巻市出身シンガーソングライター。2017年から宮城県を中心に活動を開始。2018年9月「第4回 発掘 ! おもしろ東北人」にてグランプリ受賞。2019年4月には石巻の特産品等をテーマにした歌で地元をPRする活動が認められ、石巻市から「いしのまき観光大使」に委嘱される。2020年4月から初の冠ラジオ番組「Got Emo?」(毎週水曜日20:00~21:00)がDate fmにてスタートし「必聴ラジオ2021」に掲載される。
〈特集〉貴重な資料を長く継承するために ―貴重資料保存修復事業―
宮城県図書館では8,000点以上に及ぶ文化財を所蔵しています。そのなかには、経年による劣化や虫損などにより損傷を受けている資料も少なくありません。
貴重な資料の価値を損なうことなく後世に長く継承するために、宮城県図書館が実施している「貴重資料保存修復事業」をご紹介します。
◆貴重資料の現状
宮城県図書館では、古典籍およそ6万点を所蔵しており、国指定重要文化財・県指定有形文化財に指定されている資料は32件8,078点に及びます。なかでも、絵図・地図類約1,200点を所蔵していることは当館貴重資料の特色のひとつとなっていますが、折り畳みによる本紙の劣化や顔料(がんりょう)の剥落(はくらく)などが生じている資料や、明治・大正期の不適切な修理が原因で損傷を受けている資料も見受けられます。これらの資料は利用にあたって制限が生じるだけでなく、文字記載部分の剥落や本紙へのダメージ等により資料的価値が損なわれかねない状態となっています。
前身である宮城書籍(しょじゃく)館が明治14年(1881)に開館して以来、宮城県図書館が受贈・購入等により取得し所蔵してきた貴重な資料について、保存と活用を両立させ、県民の財産として受け継いでいくことが求められています。
宮城県図書館が所蔵する文化財の概要
区分 | 件数 | 員数 | 名称等 | |
国 | 重要文化財 | 2件 | 282点 | 坤輿(こんよ)万国全図(版本)附(つけたり)坤輿万国全図(著色(ちゃくしょく)) |
陸奥国仙台領元禄国絵図関係資料(附(つけたり)文書箱) | ||||
登録有形文化財 | 1件 | 5,652点 | 紙芝居資料 | |
県 | 指定有形文化財 | 29件 | 2,144点 | 仙台城下絵図、仙台城絵図、『観文(きんぷ)禽譜』など |
◆貴重資料保存修復事業について
平成16年度から進めてきた「貴重資料保存修復事業」を令和2年度から拡充し、令和2年度から31年度までの期間、損傷の程度が高い資料から優先して修理を実施しています。国指定重要文化財の修理事業については、令和元年度に文化庁と協議を行い、令和2年度から令和13年度までの期間、文化庁補助事業(美術工芸品保存修理)を活用して実施しています。県指定有形文化財についても、特に傷みが激しいものは、令和2年度から国指定重要文化財と並行して修理を行っています。
▪現在修理が行われている資料
国指定重要文化財である「陸奥(むつのくに)国仙台領元禄国絵図(げんろくくにえず)関係資料」のうち『仙台領国絵図』(元禄12年(1699)作製)について、令和4年度から5年度の2か年にわたって修理を行っています。
『仙台領国絵図』は、各村の石高(こくだか)等を記した郷帳(ごうちょう)とともに江戸幕府が各藩に命じて提出させた絵図で、約530cm×848cmの巨大な料紙(りょうし)に旧仙台藩領全体が描かれています。この資料は作製から300年以上が経過しており、開閉に伴う折り畳み線の摩耗、料紙の劣化・汚れや虫損・欠損が生じているほか、糊(のり)の接着力が低下しているため、 継手(つぎて)(紙継ぎ部分の糊しろ)や裏打(うらうち)紙の浮きが見られます。また、国絵図にはさまざまな彩色が施されていますが、絵具や墨の剥落・擦れ・色移りも見られます。
▪修理の方針
絵画・書跡・古文書などの文化財を修理する伝統的な技術は「装潢(そうこう)修理技術」と呼ばれ、文化財保護法で「選定保存技術」に選定されています。当館の貴重資料の修理は、選定保存技術保存団体に認定された修理技術者集団により行われています。
修理にあたっては、文化財が持つ情報や価値を損なわないよう、損傷の要因や保存上の妨げとなるものを除去した上で、適切な材料と技術で修理を行い、修理の方針・調査・材料等を記録に残すこととしています。また、文化庁・修理担当事業者・県文化財課・宮城県図書館による会議を実施し、修理方針や進捗状況を共有しながら修理を進めています。
◆令和4年度に実施した修理の工程は以下のとおりです。
1 損傷状況や本紙料紙(りょうし)の状態を調査し、記録します。
2 3~5の作業を行う際に、絵具の剥落(はくらく)が心配される箇所へにかわ膠水溶液を塗布する剥落止めを施します。
3 乾燥状態で刷毛(はけ)等によるクリーニングを行います。
4 旧裏打(うらうち)紙や旧補修紙を除去します。この他、近年付された付箋(ふせん)・ラベルも取り外します。
5 本紙の継手(つぎて)(紙継ぎ部分の糊(のり)しろ)を外します。
6 全ての墨書・絵具部分に本格的な定着を図るため、膠水溶液を塗布し、絵具の剥落止めを施します。
7 光学顕微鏡による本紙の繊維組成調査を行った結果、本紙にはがんぴ繊維が使われており、填料(てんりょう)として米粉が利用されていることが確認されました。
◆修理後の活用
修理にあわせて、高精細なデジタル画像を撮影し公開しています。これにより、文化財の保存と活用を両立させることが可能になります。
▪原資料の展示
修理が完了した資料については、学術研究者の調査等に供するほか、2階展示室で「修理完了記念展示」として展示し、県民のみなさんにご覧いただきました。
▪デジタルデータの公開
宮城県図書館では、デジタルアーカイブ「叡智の杜Web」において作製したデジタル画像を公開しています。巨大な絵図を展開し閲覧することは容易ではありませんが、「叡智の杜Web」では、これら資料の高精細なデジタル画像を自由に拡大・縮小・スクロールしながら閲覧することができます。また、『坤輿万国全図』の版本・写本著色双方の画像の同一箇所を比較対照しながら閲覧できるなど、デジタルデータならではの方法で資料を利用することも可能です。
▪レプリカ等の作製・公開
一部の資料については、レプリカや展示用パネルを作製し、県内公共図書館・公民館図書室や県内高等学校へ貸出する事業を実施しています。貸し出されたレプリカは授業や文化祭など多様な場面で活用されています。
図書館 around the みやぎ
シリーズ第67回 白石市図書館長 半澤 徹(はんざわ とおる)
令和5年4月、当館は「令和5年度子供の読書活動優秀実践図書館文部科学大臣表彰」を受賞しました。これは、ボランティアの協力を得て長年行ってきた、子どもの読書機会の提供と充実を図るための取り組みが評価されたことによります。読み聞かせボランティアを始めとした図書館ボランティアの方々に改めて感謝を申し上げます。
さて、当館の特徴ですが、隣接している情報センター内に、一般の利用者とは別に幼児が落ち着いた環境で絵本に接することができる「絵本コーナー」を設置しています。当コーナーでは、ボランティアの方々による読み聞かせや絵本を使った催し物を定期的に開催し、絵本による楽しい体験を提供することで、子どもたちが読書に興味を持つきっかけづくりを行っています。また、子育て世代に多くのユーザーがいる「インスタグラム」を用いて、効率的に対象となる世代にイベントや新着本の情報発信を行っています。
加えて、令和3年10月から開始した電子図書館では、その蔵書数の半数以上を児童·生徒向けの本としました。コロナ禍で配付されたタブレットパソコンにより、小学校の朝読書の時間などに活用いただいています。
当館の建物は建設から50年が経過し、何かと制約が多い施設ではありますが、職員·ボランティアの創意工夫により図書館の役割の一つである本の面白さを広める活動を今後もより一層進めていきたいと考えています。子育て世代の皆さん、ぜひ当館に足を運んでみてください。
白石市図書館
蔵書数/128,765冊(令和5年3月31日現在)
開館時間/午前9時~午後5時(水曜日、木曜日は午後7時まで)
- 休館日/毎週月曜日(祝祭日を除く)、年末年始、蔵書点検日
住所/〒989-0257 宮城県白石市字亘理町37-1
TEL:0224-26-3004 FAX:0224-26-3005
図書館員から読書のすすめ
『下町ロケット.ヤタガラス』 池井戸 潤 【著】 小学館 【出版】
月面着陸が「人類の大きな1歩」であった頃、星空を眺めては、宇宙には未知なる世界が広がっていると感じていた。今も、宇宙は未知なる世界であるが、宇宙探査機が打上げられ、多くの人工衛星が地球の周りを回り、「兎が月で餅つき」をする時代ではなくなった。
月どころか、火星へ人が行くことを目指して、技術開発が進められている。宇宙を「みる」ための装置は、多様な装置が開発され、幾種類もの方法での観測が可能になった。今や、地球を知るために、太陽系内の天体に行ってサンプルを持ち帰ることもできる。地上に目を向ければ、地球を回る様々な衛星が、精度の高い天気予報・災害警戒情報や衛星放送、車やスマホのナビゲーション機能、航空管制など、私たちの日常生活を支えている。
それら、宇宙探査や宇宙開発に不可欠なのがロケットだ。探査機も人工衛星もロケットなしには宇宙へ飛び出すことは出来ない。『下町ロケット.ヤタガラス』は、かつて自身が携わったロケット打ち上げに失敗した経歴を持つ町工場の社長佃航平が、ロケットを製造する大企業へ自社製造の部品提供を通じてロケット打上げに参画し、それに搭載した人口衛星を活用して制御する無人農業ロボットを旧友の野木博文、天才エンジニアと称される島津裕らと、各々の専門を持ち寄り、大企業と協力して開発する物語である。
令和5年2月のH3ロケットは打ち上がらなかったが、今日も多くの「佃航平」、「野木博文」、「島津裕」たちが、それぞれの夢や希望、願いを胸に、原因究明と技術開発に尽力していることであろう。
資料情報班 佐藤まどか
図書館からのお知らせ INFORMATION
■企画展 「みやぎと文学賞」
宮城県出身の作家 佐藤厚志さんの「荒地の家族」の第168回芥川賞受賞を受け、芥川賞や直木賞など様々な文学賞を受賞した宮城県出身の作家とその作品を紹介しています。来館し実際に展示をご覧になった佐藤厚志さんのインタビュー動画や、今回の展示のためにいただいたそれぞれの作品へのコメントも展示しています。入場は無料です。みなさまのご来場を心よりお待ちしております。
- 日時 令和5年6月3日(土)~8月27日(日)
- 場所 宮城県図書館2階 展示室 (泉区紫山1-1-1)
- お問合せ 一般図書班(022-377-8481)
この「ことばのうみ」テキスト版は,音声読み上げに配慮して,内容の一部を修正しています。
「ことばのうみ」は,宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第75号 2023年7月発行。