宮城県図書館だより「ことばのうみ」第76号 2023年10月発行 テキスト版
おもな記事
巻頭エッセイ『読書の原点』 作家 佐藤 厚志
小さい頃、家に本は少なかったが、グリム童話やアンデルセン童話くらいはあって、それを何度も読んだ。
小説の面白さに触れたのは中学生の時だったと記憶している。放課後、クラスメートが図書室に本を返しにいくのによくつき合っていた。彼は本を返すと、また別の本を借りた。そして書棚にずらりと並ぶ背表紙を眺めて「あれも面白い、これも面白い」と指さした。知らない作家の知らない本ばかりだった。
それからバーネットの「秘密の花園」やスティーブンソンの「宝島」やジュール・ベルヌの「十五少年漂流記」を薦められるままに読んだ。例外なく面白かった。漫画やアニメや映画が大好きだったが、小説はまた別の興奮をもたらしてくれた。登場人物の微細な心理描写によって深く共感し、ハラハラドキドキしてページをめくった。クラスメートに教えてもらった作家の別の作品にも手を伸ばした。なぜか海外の作家が多かった。
高校生になると新聞配達や部活動で本を読む時間がなく、授業中に読んだりした。無論成績は著しく悪かった。大学の文学部に入学するとどっぷり本の世界にはまる。それまでただの楽しみであった小説を自分でも書きたいとその頃考え始めた。いったいどうすれば小説を世に問うことができるだろうと、市民図書館に通って文芸誌のバックナンバーを漁った。二十代でデビューできるだろうとのんきに考えていた。デビューしたのは結局三十五歳だった。
著者紹介
佐藤厚志(さとう・あつし)
1982年宮城県仙台市生まれ。東北学院大学文学部英文学科卒業。仙台市在住、丸善 仙台アエル店勤務。2017年第49回新潮新人賞を「蛇沼」で受賞。2020年第3回仙台短編文学賞大賞を「境界の円居(まどい)」で受賞。2021年「象の皮膚」が第34回三島由紀夫賞候補。2023年「荒地の家族」で第168回芥川龍之介賞を受賞。これまでの著作に『象の皮膚』(新潮社刊)がある。
〈特集〉音と映像のフロアでしたい10のこと
図書館と聞くと、本を借りたり、新聞を読んだりすることができる所、と多くの方が思い浮かべることと思います。実は図書館では、本だけでなくCDやDVDなどの視聴覚資料も利用することができることはご存じでしたでしょうか。ここ宮城県図書館でも、1階の「音と映像のフロア」に数多くの視聴覚資料を取りそろえ、皆さんをお迎えしています。
今回は、「音と映像のフロア」を利用し尽くすための「音と映像のフロアでしたい10のこと」を紹介します。図書館に来る楽しみが、さらに増えること間違いなしです!
◆1-すてきな1曲に出会う!
音と映像のフロアで最も多い資料がCDで、15,000点以上が壁一面に並んでいます。たくさんありますが、ジャンルや作曲家、楽器別などに分けられ、聴きたいCDが見付けやすくなっています。中でも、クラシックCDはかなりの数で、名盤と呼ばれるものが多数あります。CDを試聴できるコーナーもありますので、じっくりすてきな1曲との出会いを楽しんでください。
◆2-観たかった作品を見つける!
利用数の多いDVDは約6,000点あります。DVDもCD同様様々なジャンルに分けられていますが、一番人気はこどもコーナーのDVDです。懐かしのアニメから話題の映画まで、みなさん家族で楽しそうに選んでいます。中にはお父さん、お母さんが子供の頃観たアニメ作品を懐かしんで借りていかれることも。こどもコーナーのDVDは、大人も借りることができますので、一度ご覧になってください。
◆3-好きな曲を演奏する!
音と映像のフロアの自慢が楽譜の所蔵数です。クラシックから演歌、ピアノから尺八まで、あらゆる楽譜が1万冊以上あります。フロアに出ている楽譜を見ると、そう多くは感じないかもしれませんが、半数以上は書庫にありますので、楽譜をお探しの場合は、お気軽にお声掛けください。
よくあるのが、「本をすでに5冊借りているが楽譜は借りられますか。」というお問合せです。楽譜に限らず、音と映像のフロアの資料は、本とは別に5点まで借りることができますので、ぜひご利用ください。
◆4-借りられない物を観る!
実物を見たことがない方も増えてきていることと思いますが、音と映像のフロアではビデオテープやレーザーディスクも利用できます。そんなの借りても再生する機械がないよ、と思われるかもしれません。そこで、音と映像のフロアでは視聴コーナーを設けています。視聴コーナーでは、DVD、ビデオテープ、レーザーディスクを再生することができます。ご自宅では観ることができない作品を視聴してみてください。
◆5-宮城にゆかりのある作品に触れる!
宮城県に関係のある映画や音楽と聞いて何を思い浮かべますか。郷土作品コーナーには、宮城がロケ地の映画や宮城出身の音楽家のCD、仙台フィルのCDなど、宮城にゆかりのある作品を並べています。この人も宮城出身だったの! と意外な発見があるかも。
◆6-ここでしかできないことをする!
音と映像のフロアでみなさんをお迎えするのが、マスコットキャラクターの「モーツァルトくん」です。館内での写真撮影は許可が必要なのですが、この「モーツァルトくん」だけは許可なく写真撮影ができるのです。許可なく写真撮影できる場所は、館内で唯一ここだけ。来館記念にまずはモーツァルトくんと一緒に記念撮影をしてはいかがでしょうか。
◆7-BGMを聴きながらゆったり過ごす!
これも館内ではここだけ。音と映像のフロアには職員が選んだBGMが流れています。いつもはCDですが、ごくたまにレコードがかかっていることも。BGMが聴けて、外の景色も見ることができる大きなガラス窓前のベンチは、穴場スポットです。
◆8-音符を見つける!
音と映像のフロアに来たらぜひ音符を見付けてみてください。床に巨大な音符が隠れています。2階から見るとよく分かりますので、よかったら見てください。大きな八分音符があるスペースでは、レコード展などの企画展示や上映会など、様々なイベントを行っています。
◆9-昔の映像に触れる!
八分音符のスペースでは、金曜日の午後に「16ミリフィルムフロアミニ上映会」を行っています。スクリーンに映し出されるセピア色の映像や映写機から聞こえる動作音で、レトロな雰囲気を存分に味わえます。
映像フィルムはビデオテープなどが普及する前に使用されていたものです。映像フィルムにはいくつか種類があり、8ミリ、16ミリ、35ミリとフィルムの幅によって区別されていました。宮城県図書館では、何十年も前の宮城県内の様子を撮影したものなど、およそ2,300本の16ミリフィルムを所蔵しています。どれも他では目にすることができない貴重な映像ばかりです。
◆10-シアターで映画を観る!
2階にある「ミニシアター青柳館」で映画を観たことはありますか。席数こそ92席しかありませんが、大きなスクリーンと座り心地のいい座席で、十分に映画を楽しむことができます。音と映像のフロアでは、ミニシアター青柳館を会場にほぼ毎月上映会を実施しています。過去の名作から子供向けの作品まで、幅広いジャンルで上映会をしていますので、こまめに案内をチェックしてみてください。
図書館 around the みやぎ
シリーズ第68回 大衡村公民館長 大沼 善昭(おおぬま よしあき)
大衡村公民館図書コーナーから大衡村多目的施設へ図書室を移転し、令和3年4月に約8,000冊の蔵書を揃えてオープンしました。新たに子ども図書室·学習室を設置し、一般の図書貸出のほか、未就学の親子がゆったりと絵本を見ることができるスペースを設けており、親子のふれあいの場所として提供しています。また、学習室には、座席を26席用意しています。小学校が近くにあるため、学校帰りの小学生の利用が多くみられますが、中学生や大学生にも学習場所として利用されています。
施設の中には、他に心のケアハウスやシルバー人材センター、習い事の教室が入っており複合施設となっています。今後もおはなし会などで本の面白さを伝えるために工夫し、気軽に誰でも利用していただける図書室になるように努めて参ります。大衡村にお越しの際にはぜひお立ち寄りください。
大衡村多目的施設図書室
蔵 書 数/約1万点(令和5年3月末時点)
貸出数/1人5冊まで(紙芝居は1人3冊まで)
貸出期間/2週間
開館時間/午前9時~午後5時
月曜日~金曜日(祝祭日·年末年始を除く)
- 休館日/土曜日·日曜日·祝日·休日·年末年始
住所/〒981-3602 宮城県黒川郡大衡村大衡字平林45番地1
TEL:022-347-3381
図書館員から読書のすすめ
『現実入門~ほんとにみんなこんなことを?~』 穂村 弘【著】 光文社【出版】
皆さんは今までの人生で、記憶に色濃く残っている初めての体験はありますか?初めての部活、初めてのアルバイト、初めての一人暮らし・・・。日常の中で、初めてのことに挑戦するのは結構勇気がいることですよね。
今回私が紹介する本は、人生経験値の低さを自称する歌人の作者(出版時42歳)が、この本を執筆するためだけに、今まで逃げてきた現実に立ち向かい、様々な初めての体験に挑戦するというエッセイです。
挑戦をあえて本にして発表するなんて、どんな大それた体験なのか、と思ってしまいますが、何てことはなく、日常のありふれた体験なのです。例えば、それは「献血」に挑戦することだったりします。「えっそんなこと?」と思った方もいることでしょうが、作者の穂村さんにとっては悩んで決断したことなのです。いくつかの関門(?)を突破し、いざ献血となりますが、それは意外とあっけなく終わり、人の役に立ったという現実を実感します。
私の初めての体験はというと、大学生の時に“チェーン店では無いカフェ”に1人で入ってみたことです。元教員というキャリアを持つ物静かなマスターが営む県内某所にあるそのカフェは、モダンでおしゃれなうえに、他のお客さんもどこか知的に見えてしまいます。そんな空間でアイスコーヒーとチーズケーキを食べながら時間を過ごしているとおしゃれでかしこくなった気分になりました。とても緊張しながら入ったお店ですが、入ってみると充実した時間を過ごすことができ、おいしいコーヒーを楽しむことができた、という体験でした。
このことがきっかけで、カフェめぐりが趣味になりましたし、これからはせっかく図書館員になったので、カフェで読書を楽しみたいと思います。
『現実入門』で紹介された著者の体験エピソードは私たちも真似できそうですし、新しい気付きや発見もありました。みなさんも、勇気が出なくて挑戦できないことがあったり、面倒で後でやろうと思ってしまうことがあったりすると思います。そんなとき、少しだけ背中を押してくれる一冊です。ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
児童・視聴覚班 渡邉 温紀
図書館からのお知らせ INFORMATION
■企画展 「紙芝居のあゆみ 現在に受け継ぐ紙芝居の魅力」
紙芝居は日本の民衆世界で生まれ育った独自の児童文化です。昭和の時代を駆け抜けた紙芝居でしたが、手作り感があふれる絵や感情豊かな語りなど、現在では世界中の子どもたちに親しまれています。
また、宮城県図書館には登録有形文化財である紙芝居資料が所蔵されており、今回の展示ではそのレプリカの一部を展示しています。紙芝居の歴史に触れ、より関心が深まるような資料を展示していますので、ぜひご覧ください。入場は無料です。
●日時 令和5年9月2日(土)~11月26日(日)
●場所 宮城県図書館2階 展示室
●お問い合わせ 子ども図書室(022-377-8447)
この「ことばのうみ」テキスト版は,音声読み上げに配慮して,内容の一部を修正しています。
「ことばのうみ」は,宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第76号 2023年10月発行。