宮城県図書館だより「ことばのうみ」第70号 2021年10月発行 テキスト版
おもな記事
巻頭エッセイ『本昔ばなし』 宮城県図書館長 宮原 賢一
自宅の部屋を片付けていたら、古い文庫本が出てきた。頁をめくると今より小さめの活字がぎっしり。昔はこんな細かい字を何の苦も無く読んでいたのかと、歳を実感してしまう。読みたい本を自分で買うようになったのは中学生から高校生の頃。少し背伸びをして買い込んだ岩波新書や文庫の背表紙を眺めては大人に近づいたような気分を味わっていた。
今に至るまで、買うのは文庫本がほとんど。価格や持ち歩きに便利というのもあるが、場所を取らないのが一番の理由。とは言え、油断するとあっという間にスペースを占領されてしまう。本棚から床に本がはみ出し、背中にも妻の視線が刺さるようになると、そろそろ片付けようかとなる。本を捨てるという行為には、何故か罪悪感がつきまとう。今は文庫本でもそれなりの価格で買い取ってもらえるので、後ろめたさも半分というところだろうか。捨てるのではない、リユースだと自分に言い訳しながら、本棚に向き合う。
どの本を処分するか、最初はタイトルを眺め、次にパラパラとめくって、気が付くと眼は活字を追っている。斯くして本棚の整理は、今回も文庫本の虫干しと若干の並べ替えで終わってしまったとさ。目出度し、目出度し。
著者紹介
宮原賢一(みやはら・けんいち)
宮城県図書館館長。1956年仙台市生まれ。2016年に、一度も図書館に関わることなく37年間勤務した宮城県庁を退職。その後、宮城県文化振興財団理事長(東京エレクトロンホール宮城館長)を経て、2020年4月から現職。時代小説を愛読。好きな作家は、池波正太郎、藤沢周平、隆慶一郎、上田英人等など。土地の人びとのことばと風景の記録を考えながら、絵や文章をつくっている。著書に『あわいゆくころ 陸前高田、震災後を生きる』(晶文社)がある。
〈特集〉もっと知りたい!蔵書点検
現在、宮城県図書館には、図書や雑誌、DVD・CDなど120万点を越える資料を所蔵しています。この沢山の資料の中から利用者の皆様が求める1冊を素早く提供するためには、それぞれの本の在処や状態が正しく把握されている必要があります。全ての本をチェックし、1冊1冊の状態を確認する作業、これが『蔵書点検』です。今回は、年1回実施する図書館最大のプロジェクト『蔵書点検』についてご紹介いたします。
◆蔵書点検ってなに?
蔵書点検とは、辞書的に言うと「蔵書全体を書架目録と照合し、蔵書の現状や紛失資料の有無を調査すること。」(日本図書館情報学会用語辞典編集委員会編 『図書館情報学用語事典 第5版』 丸善出版 2020年)となります。つまり、現在宮城県図書館で所蔵している資料目録と実際の資料を1冊1冊突き合わせ、その本が無くなっていないか、また、正しい位置に保管されているかを確認する作業で、一般の店舗などでも行われる「棚卸し」に相当する作業です。「棚卸し」との違いは、一般店舗の棚卸しが商品の種類と数量を確認し、現在の資産状況を把握するのに対し、図書館では一つ一つ違う資料個々の所蔵状況と排架i 位置の確認を重視することだと思います。
i 図書館では、資料を書架に並べることを『配架』ではなく、『排架』と書きます。 これは、『排』という文字に「順に並べる」という意味があるためです。
◆どうして蔵書点検をしなくてはいけないの?
蔵書点検を行う目的は、3点ほど考えられます。 一つは,先ほどもお伝えしましたが、利用者の皆さんから資料を求められたときに素早く資料を提供するために、正しい所蔵状況や排架位置を把握しておくことが必要だからです。
例えば、当館の3階開架書架には、約30万冊の図書が排架されていますが、皆さんの閲覧利用や貸出などによりそれぞれの資料の排架位置は必ずしも正しい位置に戻るとは限りません。もちろん、毎日職員や書架ボランティアの皆さんの協力によって、正しい位置に近づけるよう書架の整理作業を行っていますが、全ての図書を目視確認によって正確に配置することは難しいと言わざるをえません。正しい位置に資料がない場合、利用者の皆さんが自分で資料を探す際にも探しづらくなりますし、職員が探す場合においても時間が掛かってしまうこととなります。図書館を気持ちよく利用していただくために常に正しい所蔵状況や排架位置の把握は重要となるのです。
二つ目は、破損・汚損資料のピックアップです。蔵書点検では全ての本を手に取って確認しますので、表紙が破れた、ページが脱落したといった破損資料や、汚れて利用に適さない資料を見つけることができる機会となっています。それらの資料は、点検終了後ピックアップして修理をしたり、必要に応じて買い替えたりします。
三つ目は、所蔵資料内容の把握です。自分の勤めている図書館とはいえ、全館で120万点もある資料の中には、触れたことのない資料が沢山あります。極めて短時間ですが自館の資料に触れることにより資料構成をつかむことができます。それにより問合せへの対応が的確・効率的になる、所蔵していない分野の資料を追加して購入するなどのメリットがあります。
以上のように便利で利用しやすい図書館を維持・管理するためには、蔵書点検は欠かせないものなのです。
◆コラム : 『曝書』 とは?
皆さんは『曝書』(ばくしょ)という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
『曝書』とは、土用の晴天の日に書籍を1ページ1ページ開いて風を通して湿気を取る、書籍の虫干しのことをいいます。和紙に墨で書かれた和書は、適切に保管すると1,000年以上も利用できる非常に優秀なものですが、シミやカビ、虫食いに弱いため、図書館では季候の良い時期を利用して本の虫干しを行っていました。140年もの歴史を持ち、和書も沢山所蔵している当館でも資料を後世に伝えるため年1度、曝書を行ってきました。このことから、当館では内部的に『蔵書点検』のことを『曝書』と呼んでいます。
今の時代、一冊一冊ページを開いて虫干しすることは手間の面からも難しいですし、貴重な和書は、空調の整った部屋に保管されていますので、本来の意味での『曝書』を行うことは無くなりました。しかし、貴重な資料を将来に残し利用してもらうための活動は、蔵書点検の中で現在も形を変えて続けられています。
◆どのように点検するの?
それでは、実際にどのように点検を行っていくのでしょう。
- 事前準備作業
蔵書点検を行う際には、実施時期の4~5ヶ月前より準備を開始します。近年、120万点もある本館の資料を毎年全て点検するのは難しいため、原則、利用が多く不明になる可能性が高い開架書架にある資料は毎年、書庫の中にある資料は隔年で点検を行うことが原則となっています。事前準備作業では、資料を漏れなく点検できるよう、点検計画の策定を行います。
また、利用者の皆さんへ点検期間の周知を行うことも事前準備で重要な作業となります。蔵書点検のために休館している期間の貸出期間やサービス内容を定め、利用者の皆さんになるべくご不便をおかけしないよう周知を行っていきます。
さらに、スムーズに蔵書点検を行うために館内で事前講習会の実施や、資料をなるべく正しい順番に並べ直す詳細排列作業なども併せて行っていきます。
- 点検作業
蔵書点検の休館期間になりましたら、職員はハンディターミナルという小型の点検用端末を持ち、書架に向かいます。職員2名で一組となり、一人が本棚から資料を下ろしてブックトラックに乗せ、もう一人がハンディターミナルで資料のバーコードを1冊1冊読み込むスキャン作業を行います。
なぜ、いちいち本棚から資料を下ろすのでしょうか? これには、2つの理由があります。一つには、本棚の清掃を併せて行うからです。スキャン担当がバーコードを読み込んでいる内に、本を下ろす担当は本棚をハンディモップ等で清掃していきます。本棚を清掃できる機会はこのタイミングしかありませんので、1年の汚れをしっかりきれいにします。
もう一つの理由としては、点検漏れの資料をなるべく少なくするためです。本棚に本が沢山詰められていると、書架の後ろに落ちる本や、大きな本に挟み込まれて表から見えなくなる本が増えてきます。本棚から一度本を全て取り出すことにより、全ての資料を探し出し点検を行うことができるのです。
- 事後作業
点検作業で読み込みを行った資料のデータは図書館のコンピュータに集められ、図書館に所蔵している全ての資料情報と比較を行います。全て点検が終わった後、点検されていない資料があった場合は、職員はその情報を持って書架に行き、点検漏れの資料を探す作業を行います。発見できなかった資料については、不明資料として登録され、原則、蔵書点検3回(3年間)続けて発見できない資料に関しては、不明資料として除籍されることとなります。
また、サーバーからは、正しい位置に排架されていない資料のリストについても出力されますので、その本を書架から探して正しい位置に置き直すということも併せて実施します。
最後に、蔵書点検期間中保管されていたブックポストなどで返された資料の返却処理を行うなど、開館に向けた準備をおこないます。
今年度は、地震による災害復旧工事等と併せ、下記の期間に蔵書点検を行うための休館をいたします。期間中、利用者の皆様にはご不便をおかけしますが、より利用しやすい図書館とするためご協力願います。
◆蔵書点検に伴う休館期間
2021年11月10日(水)~30日(火)
※当該期間が返却期限となる貸出の返却日の延長など、点検期間前よりサービスについて、一部変更があります。詳しくは、館内掲示及び本館HPをご覧下さい。
図書館 around the みやぎ
シリーズ第62回 利府町図書館 館長 今野 宏(こんの ひろし)
「リフノス」利府町図書館は、利府町の文化交流センター「リフノス」内の施設として7月1日に開館しました。この「リフノス」は、図書館の他に公民館、文化会館、カフェなどがある複合施設となっており、文化や多様な個性を発信する場として、一体的かつ賑わいにあふれ、誰もが利用しやすく、集まりたくなる「住民みんなで支え成長する新拠点」を目指しております。
「リフノス」利府町図書館の施設的な特徴としては、2階まで吹き抜けとなっている、ゆったりとした空間と、その中をゆっくりと流れる空気とBGMが落ち着いた読書環境を提供しております。また、床暖房を完備した絵本コーナーには、子供達が50人以上入場できるドーム型の「おはなしのへや」があり、ここでおはなし会や映画上映会が可能です。
加えて、静かに読書を楽しみたい利用者に対しては「静読室」を用意するとともに、この施設の中で毎週赤ちゃんが主役の「赤ちゃんタイム」を設け、賑やかなひと時もつくり出しております。 私達は、この新しい図書館の運営において、「知と人が交わり、心豊かになる時をつくり出す」ことを目指して、利用者の方に愛され親しまれる図書館になりたいと願っており、令和(beautiful harmony)という新しい時代の中で、様々な人々との美しい調和を図りながらその実現に向かってまいります。
利府町図書館
蔵書点数/約9万点
開館時間/9:00~20:00
●休館日/毎月第2・第4月曜日(休日の場合は翌日)、年末年始(12月29日~1月3日)、蔵書点検期間
住所/〒981-0103 宮城県宮城郡利府町森郷字新椎の木前31番地1
TEL:022-353-5031 FAX:022-355-6250
URL:www.rifunosu.jp
図書館員から読書のすすめ
『かもめ食堂』群 ようこ[著] 幻冬舎[発行]
私は読書が苦手です。厳密にいえば、絵本や携帯小説、ライトノベルなどは労せずして読めるのですが、一般的な文芸作品やノンフィクションの本などは手に取ることも億劫になってしまいます。そんな私でも読み進めることができた本がこの1冊でした。
主人公はフィンランドの首都ヘルシンキで小さな食堂を開きます。最初は主人公の容姿が子どもに見えることから、子どもが働く妙なお店だと遠巻きにされます。加えて、主人公は頑なに日本のおにぎりというメニューにこだわり続け、現地の人に受け入れられませんでした。しかし、ヘルシンキを訪れた日本人2人に出会うことで、主人公の考え方も徐々に変わっていき、フィンランドの人に受け入れられる食堂になっていきます。
読了後真っ先に感じたのは、いつか私もこんな生き方が出来たらなあというものでした。
「…どこに住んでいても、どこにいてもその人次第なんですよ。その人がどうするかが問題なんです。しゃんとした人は、どんなところでもしゃんとしていて、だめな人はどこに行ってもだめなんですよ。」(p152~153)
本文中に出てきた台詞です。グッと自分の胸に突きささるようでした。外に出ること自体あまり好きではなく、とにかく出不精。海外に行った経験も大学時代の授業でほんの2週間程度、それも友達が一緒に行くという不純な理由からの私。対して、この本に出てくる3人の日本人は、それぞれに事情を抱えながらも、自分の意思で遠い異国の地に行く決断をしました。だからこそ、素敵な出会いを持つことができたし、人とのかかわりを通して考え方の違いや個性を受け入れることが出来たのだと思います。
自分との違いに少々落ち込みつつも、こんな考え方ができたらな、こんな人になりたいなと思わせてくれるような場面がいくつもありました。
読書の魅力はここにあるのではないかと感じます。人生の中でやりたいことがいくつあっても選ぶことができる選択肢は一握り。けれど、読書を通じてであれば登場人物に自分を投影し、どんな人になることも、いろんな世界を知ることも出来ます。
もし私のように読書に苦手意識を持っているならば、この1冊を試してみてはどうでしょうか。この小説が原作の映画もあるようなので、映画を見てから小説を読んでみても違う驚きがあり、楽しめるかもしれません。また、食べることが好きな方にもおすすめです。おにぎりやシナモンロールの描写は食欲をそそること間違いなしです。
私の好きなこの1冊が、読書をしようかなというきっかけになれば幸いです。
一般図書班 調査相談担当 畠山 遥
図書館からのお知らせ INFORMATION
3階一般図書フロアで「働き方を見直そう!」展示を開催中です。
令和3年11月9日(水)まで「働き方を見直そう!」展示を行っています。それぞれのライフステージに合った働き方や労働に関する法律、工夫をして効率良く仕事をしている人の体験談など、「働き方」を見直すための本を集めました。ブックリストもございますので、併せてご利用ください。
●期間/令和3年9月16日(木)~11月9日(火)
●時間/図書館開館日の開館時間に同じ
●場所/宮城県図書館3階一般図書フロア
2階子ども図書室で「ハロウィン」展示を開催中です。
2階子ども図書室では、「ハロウィン」にちなみ、いたずらお化けや魔女などが登場する絵本を集めてテラス出入口前に展示しています。ぜひご利用ください。
●期間/令和3年9月16日(木)~10月31日(日)
●時間/図書館開館日の午前9時から午後5時まで
●場所/宮城県図書館2階子ども図書室
1階音と映像のフロアで「鉄道の日」展示を開催中です。
1階音と映像のフロアでは、企画展示「鉄道の日」を開催しています。鉄道に関連した視聴覚資料(CD、DVD)を展示コーナー43番書架で展示しています。
●期間/令和3年9月8日(水)~11月9日(火)
●時間/図書館開館日の開館時間に同じ
●場所/宮城県図書館1階音と映像のフロア
企画展「視聴機器今昔ものがたり」を開催中です
音楽や映像などを視聴する方法は時代につれて様変わりしてきました。この展示では、宮城県図書館で所蔵している音楽・映像機器のご紹介を通して、その変遷をご覧いただきます。
●期間/令和3年9月4日(土)~11月9日(火)
●時間/図書館開館日の午前9時から午後5時まで
●場所/宮城県図書館2階展示室
「図書館で星を見よう ―ベガ号天体観望会―」を開催しました!
令和3年8月4日(水)19:00から、「図書館で星を見よう―ベガ号天体観望会―」を開催しました。仙台市天文台の移動天文車“ベガ号”をお招きするのは今年で3回目となります。当初、曇り空だったため観測ができるか心配でしたが、待つこと30分、雲の隙間から星を見ることができました。来年度も開催する予定ですので、興味がある方はぜひ参加をご検討ください。
この「ことばのうみ」テキスト版は,音声読み上げに配慮して,内容の一部を修正しています。
「ことばのうみ」は,宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第70号 2021年10月発行。