宮城県図書館だより「ことばのうみ」第56号 2017年1月発行 テキスト版
おもな記事。
巻頭エッセイ 『本の思い出』 梶賀 千鶴子。
両親ともに本が好きで、本に囲まれた幼児期を過ごしました。母の話によると、小学校に入る前から、好きな本を声にして脚色して読み上げて近所を回る「お話の出前屋さん」をやっていたのだそうです。言われてみると確かにそんな記憶があります。しかし私に突然出前を受けたご近所様はさぞご迷惑だったのではと今更ながら感じています。
小学生になったある日、本棚で『デカメロン』というタイトルを見つけました。当時としては高級なフルーツの名前に似ている…これだ! と、読みはじめたら、ちっとも美味しいお話ではありませんでした。それは、中世ヨーロッパの作家ボッカッチョの作品、所謂大人の本だったのです。
そんな風に少女時代には様々な分野の本に興味が沸いた一方で、気に入ると何度も読み続ける癖がありました。ボロボロになるまで読んだのは『夕鶴』と『赤い鳥』でした。勿論未だに大好きな作品です。
中一の夏休み、ちょうど気になっていた「ママンが死んだ」ではじまるカミュの作品を「おしゃれー」と一気に読みました。先生から返ってきたその感想文には「年齢に合う本を読みましょう」と、推薦された作品がびっしり書かれてありました。
その後私は、大学に進むと自分の劇団を立ち上げ、卒業後は縁あって劇団四季で脚本や演出を手掛けることになりました。そして、1990年からは仙台で再び創作ミュージカルづくりを通じて様々な世代の方々と共に、幼い頃とは形は違えど「お話の出前屋さん」をやっています。
スタッフたちは、PCやらiPadやらと、デジタル化が進んでおりますが、私は今も「やはり、文字は紙で読まないと」というアナログ派のままです。私たちの子ども時代に体験した、本の世界にべったりと入れる幸せな感覚、本の厚みから匂いたつようなワクワク感が忘れられないからです。
著者紹介。
梶賀千鶴子(かじか・ちづこ)
宮城県仙台市出身。1971年劇団四季入団。
「キャッツ」等では演出補・演出助手
「魔法をすてたマジョリン」等では作家・演出家として数多くの作品で活躍。
現在も、故郷仙台を拠点に独自の創作活動を展開している。
〈特集〉図書館の本で作ってみました!
宮城県図書館では、「つくってみました」と題して、2016年9月21日(水)~10月15日(土)の間、3階一般フロアで展示を行いました。図書館にあるさまざまな本の中から、職員が実際に作って、描いて、体験してみたものです。
初めてのチャレンジで苦労した職員もいたようですが、それぞれの個性が光る作品が集まりました。今回の特集では、その展示の中からいくつかのチャレンジをピックアップし、成果と作ってみた感想を紹介します。
[ 睡蓮 ]
睡蓮の作り方はp56~57にあります。なかなかお手本のようにきれいにいかず、苦労しましたが楽しかったです!
今回は単色の折り紙を使用しましたが、柄や両面に色が付いたものを使用すれば、また違った味わいのものができます。
正方形の紙があれば、誰でも挑戦できますので、ぜひ色々なくす玉に挑戦してみてください。
参考にした本:『くす玉』 桃谷好英著/誠文堂新光社/2007
[ 花びらのお弁当箱 ]
今回参考にした『小物を縫う』は、長年母の愛読書であり、常に居間の本棚に置いてありました。おそらく私が初めて手にした手芸本であると思われます。そして今日に至るまで、私の一番の縫い物の教科書となっています。
縫うという行為は、単純作業でありながら、多くの根気と時間を必要とします。だからこそ、縫い目ひとつひとつに祈りや願いが託されていたということが、この本を読むとよくわかります。私が縫い物を好きになったのは、縫うという作業が単純に楽しかったのもありますが、この本を読んで、針目に宿る不思議な魅力に惹かれていたからかもしれないと改めて思いました。
ぜひこの本を読み、縫い物の不思議な魅力を感じてください。
参考にした本:『小物を縫う』上・下
森南海子著/情報センター出版局/1982
[ 水墨画 ]
今回、苦手な絵を克服しようと思い水墨画に挑戦してみました。本を参考にしながら描いたことで少しは上手に描けたと思います。今回は画用紙に水墨画を描きましたが、うまく滲まなかったのでそこが反省点です。絵が苦手な方も、当館の本を利用して描くことを楽しんでみてはいかがでしょうか。
参考にした本:『玉雲水墨画 第25巻』
山田玉雲著/秀作社出版/1997
[ マリネとサラダ ]
表紙の写真に惹かれて借りました。冷蔵庫のストック食材で作れて、調理時間も手間もあまりかかりません。
シンプルなのでアレンジもしやすく、味もGood。お弁当や夕飯の一品にと大活躍です。
参考にした本:『作りおきサラダ:冷めてもおいしい。ねかせるからもっとおいしい。』 主婦の友社編/主婦の友社/2013
[ Princess Hair ]
ラプンツェルとシンデレラを参考にアレンジを効かせて仕上げてみました。
モデルになってくれた職員の髪が、長くて、さらつやで、芯がしっかりしており、うまくまとめるのが大変でした。ねじりや三つ編みなど簡単なアレンジの組み合わせなので、短時間で仕上がりました。ちょっとしたお出かけや結婚式にどうぞ。
参考にした本:『ディズニーヘアアレンジブック』
金子真由美著/KADOKAWA/2016
[ ボックスファイル ]
作り方がそれぞれ図で示してあり、わかりやすかったです。
基本を覚えれば、自分の好きな形にアレンジでき、手軽に身の回りをかわいく片付ける方法としておすすめです。
参考にした本:『やさしい布箱づくり:広岡ちはるのカルトナージュ』
広岡ちはる著/文化出版局/2005
[ ミニブーケ 2種類 ]
花そのものを作るより、ブーケにするために配色や大きさのバランスを取るほうが難しかったです。
使用した紙はタント紙と100円ショップの折り紙です。タント紙は画用紙よりも薄く加工しやすいうえ、両面カラーで色数も豊富なので、お花を作るのに便利です。
参考にした本:『1枚の紙から作るバラの折り紙』佐藤直幹著/日本ヴォーグ社/2015 『おとなかわいいお花の切り紙アイデアブック』日本ペーパーアート協会監修/日東書院本社/2015
[ ゼンタングル ]
「ゼンタングル」とは、ペン1本と紙さえあれば誰にでもできる新感覚アート、なのだそうです。
「絵心ゼロでも大丈夫」ということで、半信半疑ながら試してみました。
やってみるとなかなかに面白く、時間を忘れて楽しむことができました。ただ、細かい作業の繰り返しだったので、翌日は肩こりに悩まされました。
確かに絵心ゼロでもそれなりのものができたと思っているのですが、いかがでしょうか?
参考にした本:『はじめてのゼンタングル』
さとういずみ著/自由国民社/2014
[ 切り絵 ]
黒一色だと寂しいので、裏面に100円ショップで購入した和紙を貼りつけ、色をつけてアジアンな感じにしてみました。背景に使った紙も、100円ショップの折り紙です。
魚と花については普通の色画用紙だと切るのが大変なので、タント紙を使っています。
使用するカッターは、細かな作業に適したデザインナイフがおすすめです。
参考にした本:『世界の文様切り紙』
上河内美和著/誠文堂新光社/2009
宮城県図書館には、工作や料理、絵画など、様々な分野の本がそろっています。みなさまも、図書館の本を参考に新しい「何か」を作ってみてはいかがでしょうか?
図書館 around the みやぎ
シリーズ第49回 川崎町公民館図書室
主事 渡邊 絵美莉(わたなべ えみり)
川崎町公民館図書室は、川崎町役場に隣接している、公民館の一階にあります。
当図書室は昭和46年に公民館が新築されると同時に開設されました。当時は、現在の図書室の半分にも満たない面積でしたが、今から20年ほど前に改装して現在の規模となり、利便性も向上しました。
蔵書数は、小規模ながら児童書や一般図書、郷土資料など7,454冊(平成28年10月末現在)を配架しています。
図書室内には勉強スペースもあり、学校帰りの小中学生が図書室にある本を利用しながら宿題をするなど、児童が利用しやすい環境を整えています。また、幼児向けの絵本を多く揃えていますので、小学校などで絵本の読み聞かせをしているボランティアの皆さんが有効に利用されているようです。
幼児・児童向けの読書啓発活動として、年に一回、宮城県図書館の協力のもと「子どもの本展示会」を開催しています。その際には、字の読み書きが出来ないお子さんを対象として、先ほどのボランティアサークルの皆さんによる「読み聞かせ」も実施しています。このように、子ども達に児童書との出会いを提供することで、少しでも子ども達の読書活動を推進したいと考えています。
公民館内の一室ということで、他の図書館と比較すると小規模ではありますが、利用される方にとって「居心地のいい図書室」であり続けられるように心がけていきたいです。
川崎町公民館図書室
蔵書冊数/7,454冊
開館時間/9:00~21:00
●休館日/年末年始(12月29日~1月3日)
住 所/〒989-1501 宮城県柴田郡川崎町大字前川字裏丁175-2
TEL:0224-84-2111(内線:1190~3)
FAX:0224-85-1026
図書館員から読書のすすめ。
『人間失格 グッド・バイ 他一編』 (太宰 治[著] 岩波書店[刊])
ぶわっ、自分の心に広がる感覚。
『人間失格』を読み終えたとき、作者太宰治の言葉にのみこまれた。まるで彼自身を死へと追い込むような語り。自伝にして遺書ともいわれるこの一冊が、私の心に太宰色をにじませた瞬間だった。
3枚の奇怪な写真と、「恥の多い生涯をおくってきました。」という言葉からはじまるのは、独りの人間の悲しい半生。他人の本心が怖くても、愛されたかった彼は、「道化」という仮面をつけて調子者を演じる。複数の女性との関係を持ちつつも、繰り返す自殺未遂と薬物。彼が、自分を「人間失格」とみなしたとき、まだ27歳の青年であった。
今年の夏、太宰治ゆかりの地を訪れた。襖裏の落書きに、色あせて中身の見えたソファー、原稿用紙の上で踊る文字達。そして、彼が執筆していたという離れ。所々に見えた彼の姿に、私の中で歴史上の人物だった太宰治が、初めて動き出した。帰宅後、久しぶりに『人間失格』を開くと、そこに浮かび上がったのは、紛れもない主人公と作者の色鮮やかな人生だった。もがき苦しみながら、それでも懸命に生きようとした、彼らの人生。
彼の作品は、しばしば「暗い」といわれる。『人間失格』がいい例だ。しかし、彼の作品の魅力は、文からにじみ出るやさしさにあると私は思う。それは、作品の暗さ明るさを選ばない。むしろ、やさしいからこそ表現できる陰がある。「暗いから…」という理由でこの本と疎遠になっている方にこそ、手にとってほしい。この本は本当に暗いだけなのだろうか。
さあ、この一冊に太宰治がにじませたやさしさを、あなたのその手で掬って、味わって。
(総務班 志田 光)
図書館からのお知らせ INFORMATION。
公文書館 企画展「二宮金次郎像の誕生」を開催中です。
二宮金次郎といえば、薪を背負って読書をしている、「負薪読書図(ふしんどくしょず)」の姿があまりにも有名ですが、成人してからの幕末農村復興運動の指導者としての活動も人々に知られるところです。
本展では、幕末に亡くなった金次郎が、明治時代以降どのように人々に知られていき、全国の小学校に像が建てられるほど有名な人物になったのか、金次郎のイメージ「像」の形成と変化について紹介しています。
●期 間 平成28年11月25日(金)~平成29年2月25日(土)
●時 間 図書館開館日の午前9時から午後5時まで
●場 所 宮城県図書館 2階 展示室
「ことばのうみ」に広告を載せませんか?
「ことばのうみ」では、広告を募集しています。「ことばのうみ」は、宮城県図書館の各カウンターや展示室等の他、県内の学校や県庁、県美術館、東北歴史博物館、自然の家等で8000部配布しています。
宮城県図書館ホームページにもPDF版を掲載しており、来館者に限らず、県外を含む多くの利用者に楽しまれています。掲載の基準や広告料についての詳細は、宮城県図書館までお問い合わせください。
●問い合わせ 電話:022-377-8444 FAX:022-377-8484
E-mail kikaku@library.pref.miyagi.jp
宮城県庁広告募集ページ
http://www.pref.miyagi.jp/soshiki/gyokei/koukoku-top.html
《叡智の杜》レポート『ビブリオバトル in 宮城県図書館 4th』を開催しました。
平成28年11月12日(土)本館1階エントランスにおいて、「ビブリオバトルin 宮城県図書館 4th」を開催しました。
「ビブリオバトル」とは、「本」の意味を表す「ビブリオ」と「戦い」の「バトル」を合成した言葉で、「知的書評合戦」とも呼ばれています。バトラー(発表者)が本を紹介しあい、参加者が最も読みたくなった本(チャンプ本)を決めるゲームです。
宮城県図書館では平成25年から毎年開催しており、4回目を迎える今年は、初の2部構成(第1部:小説・物語の部、第2部:小説・物語以外の部)で行いました。それぞれ4名のバトラーがおすすめの本を持ち寄り、5分間の熱いプレゼンを繰り広げました。参加者からは「好みの本への愛が伝わった」「読みたい本がたくさん見つかった」などの声が多く寄せられ、まさに、ビブリオバトルのキャッチコピー「人を通して本を知る。本を通して人を知る。」を体感できるイベントとなりました。ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました!
今回ご紹介いただいた本とチャンプ本をご紹介します。(☆印は、チャンプ本)
【第一部 小説・物語の部】
☆『洟をたらした神』吉野せい/弥生書房/1974
『暗闇坂の人喰いの木』島田荘司/講談社/1990
『カンガルー・ノート』安部公房/新潮社/1995
『現代語訳南総里見八犬伝 上・下』/曲亭馬琴
[作]白井喬二 訳/河出書房新社/2004
【第二部 小説・物語以外の部】
☆『妻を帽子とまちがえた男』オリヴァー・サックス
高見幸郎 訳/早川書房/2009
『野球とアンパン』佐山和夫/講談社/2003
『ウルトラマンになった男』古谷敏/小学館/2009
『パブリックスピーキング』蔭山洋介/NTT出版/2011
この「ことばのうみ」テキスト版は,音声読み上げに配慮して,内容の一部を修正しています。
特に,句読点は音声読み上げのときの区切りになるため,通常は不要な文末等にも付与しています。
「ことばのうみ」は,宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第56号 2017年1月発行。