宮城県図書館だより「ことばのうみ」第40号 2012年6月発行 テキスト版
おもな記事。
- 巻頭エッセイ 「丘の上の図書館」 気仙沼市職員 小山歩さん。
- 特集 宮城県図書館と県内公共図書館とのつながり〜。
- 図書館員から読書のすすめ。
- 図書館 around the みやぎ 。
- 叡智の杜レポート。
- 図書館からのお知らせ。
巻頭エッセイ 「丘の上の図書館」 気仙沼市職員 小山歩。
3月1日,長男を産んだ。産休中に本をたくさん読みたいと思っていたが,行きつけの書店は被災して規模を縮小していたので,頻繁に図書館のお世話になった。
気仙沼の図書館は,海を見おろす丘の上,小学校と中学校に挟まれるように建っている。私の母校だ。図書館に通いながら, 子どもの頃を思い出した。本を借り過ぎて重いランドセルを背負って下った長い坂道,いまは駐車場になった金魚の池と姫林檎の木。
震災は,この図書館にも傷跡を残した。流失した資料は千点以上。建物自体も被災していて,母に手を引かれて通った児童室や, 受験勉強のためにこもった自習室は,いまも閉鎖されたままだ。
一方で,全国から寄贈された本を被災者に提供するコーナーが作られ,震災後だからこそわかる本の有難みや,本好きの人の優しさを感じた。
傷ついても姿を変えてよみがえる,図書館の生命力のようなものも。
いまは小さな息子も,やがて文字を覚えてあの坂道をのぼるだろう。そのとき,丘の上の図書館は,どんな姿を見せてくれるだろうか。
(おやま あゆみ 気仙沼市職員)
著者のご紹介。
小山歩
おやま・あゆみ。現在,気仙沼市職員。1980年2月4日,気仙沼生まれ。東北学院大学文学部史学科卒業。2002年,『戒』で第14回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。
特集 宮城県図書館と県内公共図書館とのつながり
県立図書館の役割の一つに,市町村立図書館等(公共図書館・公民館等読書施設)への支援活動があります。 県立図書館は県内どの市町村の住民に対しても平等に一定のサービスを提供しなければなりません。そのために直接利用者に図書館サービスを行っている市町村立図書館と連携を密に取り, その求めに答えることで全県民に対して間接的にサービスを行っております。
今回の特集では,当館が県内の公共図書館・公民館図書室に対して行っている様々なサービスに関して取り上げ具体的にどのようなことを行っているのかをご紹介します。
宮城県公立図書館等連絡会議
宮城県公立図書館等連絡会議は,県図書館と県内31の公立図書館と21の公民館等読書施設(以下「公立図書館等」という。) で構成されており,利用者に提供するサービスの充実のため,必要な連携協力や情報交換などを図ることを目的に設立され,会議は定期的に開催しています。
利用者が他の図書館(室)の所蔵図書を借りたい場合にお互いに貸し借りをする「相互貸借」や、一般図書の購入リクエスト(児童・視聴覚資料や逐次刊行物は除く。) が円滑に進むよう、取り扱いの統一と、図書資料の検索や貸借の連絡が迅速で正確に実施するための情報連絡網の整備に努めています。 今年度は4月11日(水)に各図書館長を対象とし,第1回目を,5月18日(金)に各図書館の担当者を対象とし2回目を行いました。 11月には第3回目の連絡会議を開催する予定です。
宮城県公共図書館等職員研修会
宮城県図書館では,市町村図書館及び公民館図書室職員等の資質の向上と専門知識の習得などを図るために,勤続年数に応じた研修会を開催しております。
この研修会では,図書館の概要や著作権に関することから,児童サービスに関すること,本の修理に関することなど,幅広い分野に渡り取り上げています。 このことにより,図書館職員として必要な知識や技術を身につけ,普段の業務の一助となって,図書館に携わる多くの方々の参考になればと企画しています。
昨年度から一部の研修会において,上記職員以外にも大学や高等学校の職員まで対象を広げ,多くの方に参加していただいております。
今年度は,第1回目を4月20日(金)に開催しました。今後は6月,8月,10月,12月に開催する予定です。
巡回相談
県図書館の役割である公立図書館等支援の一環として,公立図書館等活動状況や課題を的確に把握するため,当館職員が直接巡回訪問し, 管理者や職員との情報交換や施設の実体験を基に助言を行うことで,県域全体の図書館サービスの基盤の整備充実に取り組んでいます。
毎年,前期と後期の2回実施しております。図書館等が抱える課題などの状況によっては,課題解消に至るまで随時訪問しています。
特に,東日本大震災による被災図書館等において,復旧開館に至るまでの支援については, 当館だけではなく,関係機関の協力をいただきながら,県図書館一体となって取組み,現在も継続中です。
相互貸借サービス
相互貸借サービスとは利用者が求める資料が自館に所蔵していない場合,その資料を所蔵している図書館(室)から借りて, 利用者に提供することです。
県内には数多くの公共図書館(室)がありますが,所蔵している資料数は各館によって限られており,自館で所蔵している資料だけでは, 全ての利用者の要望に応えることができないこともあります。そのような場合に,宮城県図書館情報ネットワークシステムを利用し, 他館の所蔵状況を調べ,お互いに借り受けることが出来るようにしています。県内の公共図書館(室)に所蔵がない場合は, 県外の図書館から借り受けする場合もあります。
この相互貸借資料は原則週1回,宅配便で当館から県内各館に発送しています。平成23年度は当館からは県内外合わせて約15000の資料を貸出しました。
図書館員から読書のすすめ 「読書モード,復調の兆し」。副館長 加藤 睦男。
この春,宮城県図書館に赴任し,着任して2週間ほどした頃,日曜午後7時スタートの懇親会が催された。 懇親会に先立ち自己紹介カードの提出を求められたが,カードには図書館らしく愛読書を書く欄がある。さて愛読書と言われても, 改めて考えると最近これという本に出会っていないし,そもそも3.11の震災後あまり本を読んでいない。とは言え, せっかくのお題なんで,来し方を振り返り思い入れのある本をピックアップすることにした。
学童期だったら,ハックルベリー・フィンもいいけど,やっぱ小学校の図書室にあったアーサー・ランサムの「ツバメ号とアマゾン号」シリーズ(岩波書店全12巻)かなあ。 子どもたちの冒険ごっこの物語で,高校でワンゲル同好会に入ったのも,湖水地方に旅したのも多分この本が影響してるし。(現在,改訳で軽装版が出ています。)
青年期は,一時,中国の古典,中でも志怪小説に惹かれて「聊斎志異」(柴田天馬訳:角川文庫全4巻)の世界に浸っていたから, これにしておこう(後に「中国古典文学大系」(平凡社)全巻大人買い)。[こんな本を選びました]は,この系統から。 あとは海外ミステリで,レックス・スタウトの「ネロ・ウルフ」シリーズ(美食家ウルフの安楽椅子探偵モノで,助手のアーチーが秀逸:早川ミステリ文庫) とかが好きだったけど,ほとんど絶版かあ。
中高年期(現在)は,司書さん方の手前,ちょっと硬めの本しておこう,何にしようかな・・・,とあれこれ考えていたら, 震災や何やかやですっかり冷え切っていた読書意欲が少し蘇ってきた。これなら自分の愛読書を考えさせられるのも悪くないな。 どうでしょう,自分がはまった本を振り返ってフリーズした読む気を解凍するってのは。
[こんな本を選びました]
唐代伝奇集
前野直彬訳(東洋文庫)
剪灯新話
飯塚朗訳(東洋文庫)
奇談の時代
百目鬼恭三郎(朝日文庫)
妖異金瓶梅
山田風太郎(角川文庫)
新釈遠野物語
井上ひさし(新潮文庫)
図書館 around the みやぎ シリーズ第33回 名取市図書館 名取市図書館長 菅井美枝子
名取市図書館は,昭和51年4月に市役所庁舎(2階建て,996㎡)を転用して開館しました。震災当時は築53年で, 津波の被害は無かったものの,書架の傾斜や本の落下の他,建物に甚大な被害を受けました。
北海道石狩市民図書館,北広島市図書館の職員の方々や県内外のボランティアの方々にご支援をいただき, 震災から2ヶ月後に屋外の書庫や車庫等を利用して臨時開館を行うことが出来ました。10月には「20坪のプレハブ」を「図書館振興財団様」より寄贈していただき, 受付カウンターが屋内にあるという,当たり前のサービスが出来るようになりました。
その後「一日も早く子どもたちに楽しい読書環境を提供したい」と願う状況の中,「宮城県図書館様」と「saveMLAK様」のコーディネートのもと, 「日本ユニセフ協会様」「東海大学チャレンジセンター3.11復興支援プロジェクト様」「かながわ東日本ボランティアステーション様」そのほか多くの方々に建設にかかるご支援をいただき, 1月に「どんぐり子ども図書室」をオープンすることが出来ました。
児童書や絵本を中心に約2万点の資料が入り,屋外で行っていた週1回のお話会も木の香りがする暖かな図書室で行えるようになりました。 この図書室が,子どもたちの夢と豊かな心を育む場所になるものと確信しております。
このように名取市図書館は,県内外の図書館同士の連携やネットワークにより,情報の提供やご支援ご協力をいただき前進することが出来ました。 これを励みに,今後とも市民に親しまれる図書館として,震災前のサービス水準を目指し少しずつ進んでまいります。
名取市図書館のご紹介。
図書館のデータ。
蔵書冊数/154,703冊(平成23年度末)
貸出冊数/301,333冊(平成22年度末)
90,175冊(平成23年度末)
〇開館時間/火〜土曜日 9:30〜17:00(5月末現在)
〇交 通/JR「名取駅」下車 徒歩15分
住所/〒981-1224名取市増田1丁目7-37
TEL/022-382-5437 FAX/022-382-5706
ホームページ/http://www.city.natori.miyagi.jp/tosyokan/index.html
叡智の杜レポート。「宮城県図書館創立130周年記念植樹事業」を実施しました。
3月27日(火)午前11時から当館駐車場東側入口において宮城県林業技術総合センターから寄贈いただいた「オオヤマザクラ(苗木)」を植樹しました。
この植樹は,宮城県図書館創立130周年を記念するとともに,本県の図書館振興の充実・発展及び東日本大震災の鎮魂と被災地の早期復興を祈念し実施したものです。 また,外周の自然林(書見の道)の美観を高め,より一層,利用者の憩いと安らぎの環境を整備するといった目的もあります。
その後,4月28日(土)から5月12日(土)にかけて2回目の植樹を行いました。「オオヤマザクラ(苗木)」5本と「ヤマザクラ(苗木)」50本と, 2種類の桜を植樹しました。「オオヤマザクラ」は1回目と同じく宮城県林業技術総合センターから寄贈していただき, 「ヤマザクラ」は宮城県緑化推進委員会の緑化促進事業補助金を利用し購入しました。
西側駐車場入口や駐車場北面,図書館南側書見の道など各所に植樹することにより,館内のどこからでも咲いているところを見ていただけるようにしました。
将来,満開の桜が利用者の皆様をお出迎えする図書館になっていますように。
図書館からのお知らせ。
「3.11 東日本大震災」関連の記録や資料をご寄贈ください。
宮城県図書館では「東日本大震災」の記録や関連資料の収集に努め,「震災文庫」を設けて, 皆様の利用に供するとともに,永く後生に引き継いでいきます。
●収集資料:「東日本大震災」に関する資料全般について収集しています。
例)記録集,写真集,録画等映像資料,調査報告書,避難所だより,壁新聞,文集, イベントの配布ちらし,ミニコミ誌,学校だより,祝辞・答辞など
●収集部数:可能であれば3部の寄贈をお願いします。(電子データは1部で結構です。)
●寄贈方法:ご持参いただくか,下記送付先にお送り下さい。郵送の場合,送料はご負担いただきますようお願いいたします。 なお,ご寄贈の際は,「東日本大震災関係資料送付書」(本館ホームページからダウンロード可)を記入し,資料と合わせて送付願います。
●送 付 先:〒981−3205 宮城県仙台市泉区紫山1−1−1 宮城県図書館 震災文庫整備チーム
問合せ先 TEL 022-377-8498 FAX022-377-8492 E-メール:librarysb@pref.miyagi.jp ホームページアドレス http://www.library.pref.miyagi.jp/
東日本大震災関連資料の収集に,ご協力をお願いします。詳しいことは上記当館ホームページをご覧下さい。
特別展「3・11漫画家の祈りと激励展−東日本大震災文庫展Ⅱ−」開催します。
東日本大震災により,避難生活や仮設住まいを余儀なくされてきた方々の心を癒やし,励ましてきたものの一つに, 「漫画」があると思います。
世界に誇り得る日本の漫画作品は,笑いや想像上の未来世界を描くことで和みや希望を与え,またその力強い描写は勇気と気力を奮い立たせてくれます。
被災地の皆さまを励まし勇気づけたいと,作家石川好氏が日本漫画家協会加盟の漫画家に呼びかけたところ84人の漫画家から, 励ましのメッセージを添えた直筆漫画色紙などが宮城県図書館に寄贈されました。
この大災害をこの時代の漫画家が,どのような想いで受けとめてたかの記録と被災地の復興の願いが込められています。 夏休み期間も開催していますので,お誘い合わせのうえ,ぜひご覧ください。
○期間:平成24年7月3日(火)から平成24年8月31日(金)まで
○時間:図書館開館日の午前9時から午後5時まで(初日は午後2時から)
○場所:図書館2階 展示室
○お問い合わせ:企画協力班(1階) TEL:022−377−8444
公文書館移転に伴う改修工事を行っております。
ただ今,宮城県図書館では公文書館移転に伴う改修工事を行っております。工事期間中は,多少の騒音,振動などが発生いたします。利用者の皆様には,大変ご迷惑,ご不便をおかけしますが,ご理解とご協力をお願いいたします。
なお,期間中の図書館サービスは,利用者の十分な安全確保を図りながら,一部の施設貸与を除き,通常どおり行います。
○期 間:平成24年5月21日(月)〜平成24年11月22日(木)
○お問い合わせ:総務班(1階)TEL:022−377−8442
この「ことばのうみ」テキスト版は,音声読み上げに配慮して,内容の一部を修正しています。
特に,句読点は音声読み上げのときの区切りになるため,通常は不要な文末等にも付与しています。
「ことばのうみ」は,宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第40号 2012年6月発行。