宮城県図書館だより「ことばのうみ」第4号 2000年3月発行 テキスト版
おもな記事
- 表紙の写真
- 表紙エッセイ 『原風景』 絵本作家 とよた かずひこさん
- 特集 『子どもが本と出会うとき』〜西暦2000年は「子ども読書年」〜
- 貴重書の世界 「古活字版」
- わたしのこの一冊 レオナルド・ダ・ヴィンチ『レオナルド・ダ・ヴィンチ素描集』ウインザー城王室図書館蔵
- 図書館Q&A
- 図書館からのお知らせ
表紙の写真。
子ども図書室で読書をしている親子の様子です。
表紙エッセイ 『原風景』 絵本作家 とよた かずひこさん。
「どこの海を描いても、どうしても日本海がでてきてしまう・・・」 新潟生まれの絵本画家が、僕にそう語ってくれたことがある。 四年前に出版した拙著『くじら・へび・らいおん』という絵本に「・・・海は青ではなく緑色でもいいんだなと思いました」という読者カードをいただいた。そうかそういうことなのか。 小学生の頃、父に連れられて、よく閖上港や蒲生海岸へハゼ釣りに出かけた。そこで日がな一日見ていた海の色−ちょっとよどんだ緑色−それが僕にとっての海の色だったのだ。 この歳になってくると原風景がよみがえる。もし、図書館内を描く必要にせまられたら、まず東六小学校の木造校舎の一隅にあったささやかな書棚風景が目の前に出てくるだろう。 東京が遠くあこがれの街であった頃、たっぷりの時間の中を仙台で暮らせたことをとてもありがたく思う。
著者のご紹介。
豊田一彦。絵本作家。1947年仙台市生まれ。東六番丁小学校、東北大(現宮教大)付属中、仙台二高、早稲田大学第一文学部卒。小牛田町をヒントにした『でんしゃにのって』 をはじめとする「うららちゃんののりものえほん」シリーズや「ワニのバルボン」シリーズ(以上アリス館)。「しろくまパパとあそぼう」シリーズ(岩崎書店)などの作品がある。日本児童出版美術家連盟会員。
特集 『子どもが本と出会うとき』〜西暦2000年は「子ども読書年」〜
今年5月5日の「こどもの日」に「国際子ども図書館」(日本初の国立児童資料専門図書館)が東京・上野にオープンします。これに合わせて国会は、西暦2000年を「子ども読書年」とすることを決議しました。(1999年8月) 今回は、みやぎゆかりの児童文学者・石井桃子(いしい・ももこ 1907年〜)さんの活動を手がかりに、子どもと本の出会いのために宮城県図書館が果たしてきた役割と、児童サービスのいまを紹介します。
『ノンちゃん雲に乗る』はみやぎで生まれた
戦後の児童文学を代表する『ノンちゃん雲に乗る』(大地書房 1947年)は、石井桃子さんが、戦争中に東京から疎開してきた宮城県栗原郡鴬沢村(うぐいすざわむら・現在の鴬沢町)で書き上げた作品です。
『ノンちゃん雲に乗る』は、昭和26年(1951)に第1回芸術選奨文部大臣賞を受賞し、当時のベストセラーになりました。石井さんはその印税で鴬沢に「ノンちゃん牧場」を開き、地域の人々や子どもたちとふれあったのです。そこでの暮らしを、飼い猫をモデルにしたのが『山のトムさん』(光文社 1957年)でした。『やまのこどもたち』(深沢紅子絵 岩波書店 1956年)、『やまのたけちゃん』(深沢紅子絵 岩波書店 1959年)も、この地域が舞台です。
石井さんが鴬沢で過ごしたのは4年間ほどでしたが、鴬沢を”第二の故郷”と語り、帰京後も時折訪ねては、小学校で読書の特別指導にもあたりました。子どものための図書館づくりは、石井さんの大きな夢でした。石井さんは生涯をかけて、このテーマに取り組んでいるのです。
宮城県図書館と児童文化活動
宮城県図書館は、明治14年(1881)に開館し、明治36年(1903)には「男児童閲覧室」を開設しました。これは公立図書館としては、山口県立図書館に次いで全国2番目の児童サービスの始まりでした。
大正10年(1921)に仙台市在住の天江富弥(あまえ・とみや 1899〜1984年)とスズキヘキ(1899〜1973年)が童謡専門誌『おてんとさん』を創刊すると、児童文学活動は年々盛んになりました。そして大正12年(1923)には児童文化活動の拠点として、宮城県図書館に「仙台児童倶楽部」が設置されたのです。
仙台空襲で焼失した図書館は戦後復興され、児童文化活動再開されました。宮城師範学校・東北大学教育学部児童文学班の学生も参加して、紙芝居やおはない会等が盛んに行われました。こうした活動は、昭和33年(1958)に児童会館(現在の宮城県中央児童館)が開設されるまで続きました。
昭和43年(1968)に、市町村図書館、公民館への本格的なサービスとして配本車を運行し、「えほん文庫」「小学生文庫」等のセット貸出を始めました。また、翌44年(1969)から平成6年(1994)までは、移動図書館車「こかげ号」で、山や海の分校の子どもたちにも本を届けました。
子どもと本の出会いのために
現在の宮城県図書館は平成10年(1998)3月に新築オープンしましたが、ここでの児童サービスは「子ども図書室」と「児童資料研究・相談室」で行う直接サービスと、協力貸出など市町村図書館・公民館図書室への支援業務の二つが中心となっています。
子ども図書室には約17,000冊の絵本や紙芝居、読み物、図鑑などがあり、昨年4月から12月までの9ヶ月間だけでも約150,000冊の貸出がありました。
また、児童資料研究・相談室には、約80,000冊の資料が整理、保存されており、石井桃子さんの全集など、児童書関係の研究に役立つ資料が整っています。さらに、子ども図書室の貸出用とは別に、毎年出版される約3,300冊の児童書をすべて収集し、整理していますので、いつでも手にとって読んだり、調べたりすることができます。児童書関係の調査相談(レファレンス)もここで行っています。
児童サービス関係の行事としては、毎年春に、その前年に新しく出版された児童書の中から約1,400冊を選んで、「子どもの本展示会」を開催しています。今年の第31回展示会は5月11日(木)から14日(日)まで”ホール養賢堂”で開きます。展示会はその後、市町村図書館や公民館を巡回する予定です。毎年秋に開催している「読書活動研究集会」をはじめ、、「子ども読書年」にちなんだ記念行事も計画しています。
石井桃子さんは子どもが本と出会うことの意味について、次のように語っています。「その物語が非常におもしろくて、子どもの心に沈み込めば、それは、その子が大きくなるにつれて、だんだん深い意味をもってよみがえってきます」(『子どもと文学』福音館書店 1967年)と。
子どもにとって読書は何よりの楽しみであり、子どものころ出会った本は、その人の一生に大きな影響を与えるものです。宮城県図書館は「子ども読書年」を新たな契機に、図書館のない町や村も含めて、子どもたちによりよい読書環境を提供していきたいと考えています。
利用者のこえ
子ども図書室で ボイド・空くん(4歳)と母親の美佳さん(仙台市在住)
- どんな本が好きですか。
- ○空くん
- 「カブト虫とかの昆虫図鑑。恐竜や天気の本もおもしろいよ。」
- ○美佳さん
- 「長谷川集平さんや灰谷健次郎さんの本が好きです。最近読んだ本では、『GUESS HOW MUCH I LOVE YOU(どんなにきみがすきだかあててごらん)』(S.McBratney文 A.Jeram絵 Walker Books 1994)がおもしろかったですね。息子も私も子ども図書室が大好きです。子どもが自分で本を取れるようにと書棚が低くしてあったり、”くつろぎコーナー”があったりと、よく工夫されていると思います。」
児童資料研究・相談室で 高橋裕子さん(仙台市在住)
- 児童資料研究・相談室はどのように利用していますか。
- ○高橋さん
- 「”女性学を学ぶ会・仙台”というグループに参加しています。今は絵本の中で父親と母親がどのように描かれているかをテーマにして調べていますので、この研究・相談室は心強い見方です。」
- 心に残る児童書は何ですか。
- ○高橋さん
- 「『秘密の花園』(バーネット作)です。この本は私が児童書を読むきかっけになった気がします。『少女ポリアンナ』(ポーター作)からは、プラス思考を学びました。
時空をこえて 貴重書の世界 古活字版(こかつじばん)。
日本の活字印刷は、安土桃山時代末期(1593年頃)からはじまって、江戸時代初期(1640年頃)まで続くが、近世後期に再び行われる近世木活字と区別して古活字版と称する。古活字版は約50年で終わり、もとの木版印刷にとって代わられるのは、読者層が広がり、出版業が成立したことによる。小回りはきくが小規模出版向きの古活字では間に合わなくなったからである。
古活字版において重要なことは、初めて日本の古典が印刷されたこと。日本書記、万葉集、源氏物語、伊勢物語など、数多い。また古活字版は出版点数が少ないこともあって、現今では全て貴重本視されている。
本館には13点163冊あり、すべてが伊達文庫である。写真は囲碁の本としては最初の刊行物である『碁経』で、慶長12年(1607)に出版された。左側の奥書(おくがき)と右側の棋譜は木版印刷で、棋譜の上下の文字のみが木活字で印刷されたもの。
わたしのこの一冊 レオナルド・ダ・ヴィンチ『レオナルド・ダ・ヴィンチ素描集』ウインザー城王室図書館蔵
「ダ・ヴィンチの馬」仙台市 菊地信義。
レオナルドの真筆写真と対面した。一枚一枚、見事である。題材は動物であるが、馬が最も多い。部分だけのもの、全体像、さまざまの角度からの馬、馬、馬。仏つくって魂を入れる、これらは画龍点睛、馬は画いて目を入れている。どの馬も目によって生きている。これらの馬に、鎧・兜の武者が手綱を取れば、騎馬武者であり、『平家物語』の合戦となり、黒澤映画の合戦シーンとなる。
1505年前後の事、イタリアはフィレンツェの市庁舎ヴェッキオ宮の大会議室の壁面に、名画が誕生しつつあった。「アンギアーリの戦い」という題名で、ミラノ軍を撃破したフィレンツェ軍の勝利の一大フレスコ画が、二人の天才によって、共同制作されつつあった。53歳のレオナルドと30歳のミケランジェロ。しかし、いかなる理由からか、この制作は中止され、放棄された。雄壮な騎馬合戦となる壁画は、偉大な芸術家の胸中の幻の合作壁画に終わった。ルネサンスの惜しむべき夢物語である。
夢と言えば、「旅は病で夢は枯野をかけ廻る」を辞世の句とした、元禄の松尾芭蕉は、彼の遺言どおり、琵琶湖畔の木曽殿の塚の隣りに埋葬された。そう言えば、今日1月20日は、『平家物語』の悲運の武将、木曽義仲の命日である。
図書館 Q&A。
県図書館が遠くて、身近に利用できません。どうしたら良いでしょう。(本吉町 Sさん)
県図書館は、市町村図書館等に対して資料の貸出や相談業務の援助を行っています。また、あなたのまちの図書館でお探しの本がない時、図書館同士お互いに利用できるしくみ(相互貸借)があります。県図書館の蔵書を検索できる館では、ネットワークが威力を発揮しています。あなたのまちの図書館や公民館図書室に足を運ばれてみてはいかがでしょう。
図書館からのお知らせ。
- からだの不自由な方に字幕・手話付きビデオの貸出を行っております。
対象は耳の不自由な方です。
内容は映画やテレビ番組などのビデオです。
- からだの不自由な方に録音図書の貸出を行っております。
対象はからだの不自由な方です。
内容は小説・実用書等を録音したものです。
目の不自由な方には、図書や新聞記事などの朗読サービスも行っていますので、ご利用下さい。
- 「地形広場」・「としょかんギャラリー」の開放
地形広場は朗読劇、ミニコンサート等の発表の場として開放します。
としょかんギャラリーはオープンスペースを絵画、彫刻等の展示、発表の場として開放します。
対象は営利を目的とせず、催しを開催する方。
お問い合わせは総務班 電話 022-377-8441
- 2000年は「子ども読書年」そして「図書館法公布50周年」です。
宮城県図書館では、記念行事(6月と10月頃)を企画しています。詳しい内容と日時が決まりましたら、改めてお知らせします。是非ご参加ください。
この「ことばのうみ」テキスト版は、音声読み上げに配慮して、内容の一部を修正しています。
特に、句読点は音声読み上げのときの区切りになるため、通常は不要な文末等にも付与しています。
「ことばのうみ」は、宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第4号 2000年3月発行