宮城県図書館だより「ことばのうみ」第3号 1999年11月発行 テキスト版
おもな記事
- 表紙の写真
- 表紙エッセイ 『贅沢な孤独』 作家 小池 真理子さん
- 特集 『図書館をもっと楽しむ』〜利用者が探る新しい魅力〜
- 貴重書の世界「五山版」
- わたしのこの一冊 吉松隆『世紀末音楽ノオト』
- 図書館Q&A
- 図書館からのお知らせ
表紙の写真。
書架で本を片手に楽しそうにしている男性と女性の様子です。
表紙エッセイ 『贅沢な孤独』 作家 小池 真理子さん。
十代の多感な時期、仙台で高校生活と浪人生活を送った。人と一緒にいる時間よりも、独りで過ごす時間が好きな、ひねくれたところのある少女だった。
わけもなくひりひりした神経をなだめるために、独りで何か考え、ぼんやりし、本を読み、自意識過剰のつまらない散文をノートに書き付ける。そんなことをするためにも、図書館はうってつけだった。
自分の足音が館内に谺するような、大学構内にある石造りの静かな図書館に、時々足を運んだ。受験勉強をする、という目的があったことなどすぐに忘れ、秋の夕暮れ、窓の外が暗くなるまで小説を読み耽っていたりした。
それにしても日暮れから独り、ノートや本など小脇に抱えて図書館を出た時に感じる、あの何とも言えない贅沢な孤独感は何なのだろう。今は図書館を利用することが少なくなってしまったが、行けば必ず、あの頃と同じ感覚が甦る。不思議である。
著者のご紹介。
こいけまりこ。作家。1952年東京都生まれ。宮城県第三女子高等学校、成蹊大学文学部卒業。 出版社勤務を経て著作活動を開始。1978年『知的悪女のすすめ』でデビューし、1989年『妻の女友達』で日本推理作家協会賞(短編部門)受賞、1996年『恋』で直木賞受賞。著書のなかには、仙台を舞台にした『無伴奏』(1990年)や『水の翼』(1998年)もある。
特集 『図書館をもっと楽しむ』〜利用者が探る新しい魅力〜
図書館は、情報と文化の身近な交流拠点−。
本を借りるだけでなく、調べものをしたり、創作の場に使ったりと、図書館をもっともっと楽しむためのコツとヒントを、利用者代表の丹治幹男さん、庄司真希さんのお二人が探ります。案内は早坂信子司書です。
- ○庄司
- 小学生の頃、学校帰りに児童館の子ども文庫によく行きました。土曜にはお昼も食べずに夢中で本を読んだものです。たくさんの本に囲まれているだけで幸せになる感じ−これが私にとって、初めての”図書体験”だったと思います。そこで読んだ本のなかでも『はだしのゲン』(中沢啓治作・絵)はすごい衝撃でした。
- ○丹治
- 私は高校1年生のとき、初めて福島県立図書館に行きました。そこで感じた本独特のにおいに、「ああ、これが図書館なんだ」と感激したのをよく覚えています。布表紙の改造社版『現代日本文学全集』を数冊借りて読みましたが、「よし、学生時代にこのシリーズを全部読んでやるぞ」と昂揚した気持ちになったことも、懐かしい青春の思い出です。
- ○早坂
- 図書館との出会いは、お二人にとって、とても印象的だったようですね。今日、宮城県図書館をご覧になった感想はいかがですか。
- ○丹治
- こうしてじっくり見て回ると、図書館は単に本を借りるという受動的な場所ではないと感じました。自ら能動的に接すると、奥深い無限の広がりが生まれるような気がします。
- ○庄司
- みやぎ資料室で、私も記事を書いている『映画が好き』(仙台シネマ倶楽部発行)や、地元の映画情報誌『きーの』(きーの編集室発行)を見つけたときには、ちょっと驚きました。また、『仙台映画大全集』(今野平版印刷発行 1982年)には仙台で発行された映画のプログラムがたくさん収録されていて、とても興味が持てました。
- ○丹治
- 私も参加している文芸同人誌『麦笛(むぎぶえ)』や知人が自費出版した短歌集もありました。自分史などもたくさん並んでいましたね。新聞の縮刷版、『文芸年鑑』なども充実していると思いました。これは役に立ちそうです。ところでわからないことや調べものについて気軽に相談できる”何でもお尋ねコーナー”のようなところはありますか。
- ○早坂
- それは、調査相談(レファレンス)コーナーでお受けします。利用者の方からは、本のある場所や探し方についてのご質問もありますし、専門的な文献を調べたいというご要望もあります。ご質問については答えだけでなく、調べ方も説明するようにしています。自分で調べる方法がわかると、テーマを深めることができますから。
- ○丹治
- 私も自分史をまとめるときには、たくさん調べたいことがあります。
- ○早坂
- たとえば、先ほどお話の出た『麦笛』の新聞記事を調べたいときには、パソコンで記事検索ができます。地元の河北新報でしたら、図書館から直接オンラインで新聞記事のデータベースにアクセスすることができます。これは全国的にもあまりないサービスだと思います。しかも無料です。
- ○庄司
- 雑誌の記事もパソコンで探せるんですか。
- ○早坂
- CD−ROM版の雑誌記事検索を館内の専用パソコンで利用することができます。学術的な雑誌であれば『雑誌記事索引』(国立国会図書館編集・発行)、女性誌や週刊誌などポピュラーな雑誌であれば『大宅壮−文庫雑誌記事索引』(大宅壮−文庫編著)で検索してください。映画監督などの人物名や「自主映画」といったキーワードで、記事のリストを探すこともできます。本になった目録もありますよ。
- ○庄司
- 記事のリストを見てるだけでも、おもしろそうですね。
- ○丹治
- でも、何か調べたいと思っても、忙しいときなどは図書館に来るのがちょっと大変です。インターネットで図書館に直接アクセスできると便利なのですが。
- ○早坂
- 調査相談は電子メールでも受け付けています。どうぞご利用ください。chousa@library.pref.miyagi.jp
- ○庄司
- 私たちは映画監督やプロデューサーを交えてのシンポジウムを開いたりしていますが、アマチュアの私たちにとって、会場探しはけっこう大変なんです。図書館のミニシアター「青柳館(せいりゅうかん)」やコロシアム風の地形広場「ことばのうみ」はいろいろな催しに使えそうです。東京のものまねでない、宮城県ならではの映画塾やワークショップを、図書館で開催できたらステキだと思います。図書館にも県民の文化活動を、もっともっとサポートしてほしいですね。
- ○丹治
- 私たちの年代にとっては、図書館で新しい本をただながめているだけでも、「ああ、生きている」という感じがしますし、古い本のにおいで郷愁に浸ることもできます。それに、あれこれと自分のことを考えてみたいときに、ゆっくりと過ごせる場所ってあまりないですよね。本に囲まれている雰囲気がいいんです。これからも図書館はそういう場所であり続けてほしいと思います。
- ○庄司
- 図書館は文化と出会う場所でもあり、自分の創作したものを積み重ねていく場所でもあると言えるのではないでしょうか。今日はありがとうございました。
ゲストのご紹介。
丹治幹男さん。たんじ・みきお。佐伯一麦氏(作家)を囲む文芸サークル「麦の会」会員で、同人誌『麦笛(むぎぶえ)』に参加。63歳。仙台市在住。
庄司真希さん。しょうじ・まき。映画の自主上映グループ「仙台ムービー・アクト・プロジェクト」前代表。若手映画監督の作品を紹介する「ユース・シネマ・フォーラム」(仙台市など主催)の企画運営などに参加。26歳。仙台市在住。
案内役の紹介。
早坂信子。はやさか・のぶこ。司書。宮城県図書館資料奉仕部で調査相談(レファレンス)を担当。
時空をこえて 貴重書の世界 五山版(ござんばん)。
江戸時代になって商業出版が盛んになるまでは、本といえば写本(手書きの本)が普通であった。木版印刷による本の製作は、平安時代の中頃から寺院または僧侶によって行われていたが、数も少なく、仏教関係のものばかりであった。鎌倉時代の中頃、京都と鎌倉の五山(禅宗で寺格の高い五寺のこと)を中心に出版活動が始まり、室町時代まで続き、これらの出版物を「五山版」という。
五山版の特色は、初めて仏教以外の本である漢籍を出版したこと、和紙の片面刷りで、袋綴(ふくろとじ)というスタイルを確立したことである。
五山版は約280種確認されており、本館には5種類78冊が存している。そのなかで最古のものは、南北朝時代(1336年−1392年)に刊行されたもので、これまた本館の日本の本では、最古である。
写真は、唐代の大詩人・杜甫(とほ/712−770年)の詩集で、旧仙台藩主伊達家蔵書であった。(資料奉仕部 萱場健之)
わたしのこの一冊 吉松隆『世紀末音楽ノオト』
「音楽=生涯の友」柴田町 星 一利。
「作曲家」とか「現代音楽」というと、ほとんど「興味ナシ」だろう。
作曲家に対する偏見、現代音楽に対する先入観は誰でも持っている。少し前まで私も私も持っていた。
しかし、吉松隆は違う。
音楽大学は出ていないし、一時期を除いては独学で作曲を学んでいる。私はここから興味が沸いてきた。何ら一般人とかわりないではないかと。
しかも文章が面白い。読んで笑った本は2冊目である。1冊目は中学の時に読んだ夏目漱石『坊ちゃん』。
読んでいくうちに吉松の世界に引き込まれ、そこには先入観も偏見もない。ただ、美しい音楽を書きたいという著者の思いが伝わってくる。
最後に、私に吉松隆の作品に触れる機会を与えてくれた「仙台フィルハーモニー管弦楽団」に感謝。一聴一読の価値は大いにあり。
図書館 Q&A。
図書館で働くには司書の資格が必要と聞いています。アルバイトや臨時の方でも司書の資格が必要なのですか。(亘理町 Kさん)
図書館は、人類が知識を共有するための社会的機能と考えられ、ナビゲーター、コーディネーターとして司書は重要な役割を期待されています。図書館法でも専門的職員と位置づけられています。しかし、司書の制度は様々で、公立図書館の場合は公務員試験に合格する必要があります。臨時的な雇用等で資格を条件として問う場合もあります。
図書館からのお知らせ。
- アンさんの日本体験談を聞く会。
日時は平成11年11月21日(日)です。
時間は午後1時30分から午後3時までです。
ゲストは宮城大学専任講師 アン・マクドナルドさん
申込不要、先着200人が定員です。 時間は午後1時30分から午後3時までです。
- 紙芝居の世界。
日時は平成11年11月28日(日)です。
時間は午後1時から午後3時までです。
演者 みやぎ紙芝居の会代表 常盤洋美さん。
- 市町村フェア
市町村の生涯学習などの成果発表・市町村紹介など。
第1回目は古川市フェアを行います。日時は平成11年11月9日(火)から21日(日)までです。
第2回目は大衡村フェアを行います。日時は平成11年11月24日(水曜日)から12月5日(日曜日)までです。午前10時から午後4時までです。ただし最終日は正午までです。
時間は第1回、第2回とも午前10時から午後4時までです。ただし最終日は正午までです。
他に、「上映会」「CDコンサート」「子ども放送局」などを開催します。
お問い合わせは企画担当 電話 022-377-8444までどうぞ。
この「ことばのうみ」テキスト版は、音声読み上げに配慮して、内容の一部を修正しています。
特に、句読点は音声読み上げのときの区切りになるため、通常は不要な文末等にも付与しています。
「ことばのうみ」は、宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第3号 1999年11月発行