宮城県図書館だより「ことばのうみ」第25号 2007年7月発行 テキスト版

おもな記事。

  1. 表紙の写真。
  2. 巻頭エッセイ「書物は神」 作家 高橋 克彦さん。
  3. 特集 紙芝居 今ふたたび−紡いだ歴史を未来へつなぐ 《叡智の杜》レポート。
  4. 図書館 around the みやぎ シリーズ第20回 栗原市立図書館。
  5. わたしのこの1冊 『世界の路地裏 100』
  6. 図書館からのお知らせ。

表紙の写真。

今回の写真は、子ども図書室(本館2階)での様子をご紹介しています。 絵本、児童図書、紙芝居など、約2万冊の蔵書があります。また職員やボランティアさんによる「おはなし」も開催しています。

▲ページの先頭へ戻る。

巻頭エッセイ「書物は神」 作家 高橋 克彦さん。

 『ライブラリアン』という映画がある。アメリカの世界一、二の蔵書量を誇る図書館の地下に古代の秘密が隠され、そこの司書は神の庇護者の役割も担わされているという設定だが、なるほどと感心した。

現代の図書館のイメージからは荒唐無稽と思えるが、もともと文字は神からの賜物で、それを記した書物は神の叡智を示すものに他ならなかった。司書はまさしく神に仕えていたのである。

 人の命には限りがある。けれどその言葉や思いを記した本は永遠に残る。文字に神が宿るという考え方もたぶんそこからきている。書物はそれだけ貴重な遺産だったのだ。文字が読めれば居ながらにして世界の秘密に触れることさえできる。古代の王たちは争って書物を蒐め,図書館を権威の象徴とした。

 書物へのそういう崇敬が薄れかけている。

私たちの今は,そのことごとくが書物を通じて受け継いだものなのだ。それを忘れてはならない。

著者のご紹介。

たかはし・かつひこ 作家。1947 年岩手県盛岡市生まれ。早稲田大学卒業。83年『写楽殺人事件』(江戸川乱歩賞)でデビュー。86年『総門谷』で吉川英治文学新人賞,87年『北斎殺人事件』で日本推理作家協会賞,92年『緋い記憶』で直木賞,2000年『火怨』で吉川英治文学賞を受賞。NHK大河ドラマでは,93年『炎立つ』,01年『北条時宗』を原作。作品の多くで東北の古代を舞台とするなど,東北の文化と歴史の再評価に力を注いでいる。盛岡市在住。

▲ページの先頭へ戻る。

特集 紙芝居 今ふたたび−紡いだ歴史を未来へつなぐ。

かつて,昭和の時代,街頭で子どもたちを沸き立たせた紙芝居−。その紙芝居が,今,ふたたび脚光を浴びています。折りしも,宮城県図書館が所蔵する街頭紙芝居等5,652点が,平成18年(2006)3月に国の登録文化財となりました。今回の特集では,紙芝居の歴史をたどり,今に生きる魅力を探ります。

紙芝居前夜−紙人形の”紙芝居”がはじまり

 紙に描かれた絵を次々に変えながら物語を語っていくというのが,現在の一般的な紙芝居の形態です。その前身には様々な形態で「絵を見せて語る」方法が存在しました。映写機を使って幕に人物や背景などを映し出しながら物語を演じる写し絵や持ち手のついた紙人形で物語を演じる立ち絵などです。

写し絵の流れを汲んだ立絵は,紙人形を使って芝居をすることから「紙芝居」と呼ばれるようになりました。さらには紙人形を操るより簡易な方法として,平面に絵物語を描いて演じる手法(平絵)が生まれ,その斬新さが受けてまたたくまに主流となり,ここに現在の紙芝居の誕生をみることになるのです。

昭和5年(1930)に東京写絵業組合ができて以来,平絵の形での紙芝居は急速に広まっていきました。代表的なものはなんといっても街頭で上演される『黄金バット』でしたが,街頭紙芝居が子どもたちの人気をどれだけ集めたかは,当時の子どもたちが街頭紙芝居を一日平均1・5回以上見たというデータがあるほどです。

一方で,子どもたちの絶大な人気を集めた街頭紙芝居のスタイルや画面構成などを取り入れ,聖書物語など伝道を主眼とした紙芝居も作られました。それらは布教や教育のための広範な利用を目指し,手描きの絵ではなく,量産できる印刷紙芝居として作られるようになりました。

街頭紙芝居の隆盛−子どもたちを夢中にさせた『黄金バット』

戦時中は検閲が厳しく,紙芝居においてもそれは例外ではありませんでしたが,武士道や英雄譚など,戦意を高揚させる内容の紙芝居,いわゆる国策紙芝居は国民学校などでしきりに上演されました。しかし,戦渦が激しくなるにつれ,物資不足や学童疎開などから,紙芝居の上演は激減していきます。

戦争が終わってまもなく,紙芝居の作り手たちが集結し,昭和21年(1946)には街頭紙芝居が復活しました。戦前から人気を集めていた『黄金バット』や活劇『少年イーグル』などが,まだ焼け跡の残る街角で上演されるようになり,子どもだけでなく大人まで紙芝居屋が来るのを楽しみにしたのです。昭和20年代前半が戦後紙芝居の隆盛期といわれています。

ところが,高度経済成長期に向かう昭和30年前後から,街頭紙芝居は急激な衰退期を迎えます。大きな原因は,昭和28年(1953)にテレビ放送が開始されたことでした。「電気紙芝居」とも称されたテレビの人気は爆発的に広まり,紙芝居はテレビに圧倒されてしまったのです。また進学ブームにより,街頭紙芝居のお客であった子どもたちが多忙になったこともあります。紙芝居屋が次々と廃業し,演じ手を失った紙芝居は廃棄,散逸を余儀なくされました。大正から昭和にかけて発展した街頭紙芝居でしたが,時代の変化に飲まれ,大衆文化の表舞台から撤退することになりました。

みやぎ最後の紙芝居屋・井上氏と宮城県図書館のコレクション

街頭紙芝居の隆盛期,仙台市内にも120人ほどの紙芝居屋がいたといいます。テレビの普及により紙芝居屋の廃業が相次ぎ,最後に残ったのが井上藤吉氏(2007年1月に逝去 83歳)でした。井上氏は30年以上も現役の紙芝居屋として自転車などで各地を巡り,廃業した後もイベントに出演するなど紙芝居の楽しさを伝え続けました。

宮城県図書館の紙芝居コレクションは,その井上氏から一括寄贈された5,000点余が中心となっており,文字通り東日本最大級です。その多くは手描きのものであり,街頭で紙芝居が盛んに演じられた時代の精神,大衆文化のあり様,社会的背景を伝える貴重な資料となっています。

宮城県図書館では,これらの紙芝居の保存状態を良好に保つため,一枚一枚の汚れを拭き取り,破損,欠頁の有無などを確認しました。さらに外部から専門家を招いて調査を行い,その結果平成18年3月に紙芝居資料5,652点(紙芝居5,645点(57,075枚)ほか関係資料を含む)が国の登録有形文化財(美術工芸品)として登録されました。大衆文化,児童文化の歴史を実証する意義と,手描き制作であるが故の資料の価値が認められたものです。※

紙芝居は誕生から戦争の時代を経て,盛衰を繰り返し,街頭から姿を消したかに見えますが,今日,社会が高度に情報化し,メディアが多種多様化するなかにあっても,様々な場所で活用され,子どもたちからお年寄りまで楽しまれています。聞き手の様子をうかがいながら声の調子を変え,物語を緩急自在に演じる紙芝居は,聞き手と演じ手の心がつながる双方向のメディアであり人々を物語の世界に引き込むのです。

紙芝居の価値を再発見し,世代を結びつけるために活用していくこと,そして次代へ受け継ぎ保存していくことを図書館では目指しています。

 

※登録文化財とは/文化財保護法に基づき,国・地方公共団体指定以外の有形文化財,有形民俗文化財及び記念物のうち,保存・活用のため措置が特に必要なものを文部科学大臣が文化財登録原簿に登録して保存を図るもの。

▲ページの先頭へ戻る。

インタビュー 紙芝居の力を信じて
仙台で紙芝居を制作し,実演している,ときわひろみさんに紙芝居の魅力をお聞きしました。

今から25年ほど前,自宅で主宰する「子ども文庫」で子どもたちに見てもらいたくて,紙芝居を演じ始めました。物語が進むにつれてくるくると変わる子どもの表情を見るうち,演じるだけでなく,自らも描くようになりました。

演じ手が心を込めて語りかけ,絵を引き抜くごとに,観客はお話の世界に引き込まれていきます。次の場面,演じ手が発する最初の言葉に期待が集まる瞬間は,紙芝居ならではのものでしょう。観客の反応を確かめ,共感しながら語る紙芝居は,演じ手と観客の自由な心の交流を生み出しています。

読書が嫌いな子どもでも,紙芝居となると夢中になる−そんな風景を現実のものとする,紙芝居の魅力に魅かれて演じ続けています。

また”かつて子どもだった”大人へ向けて,社会人学級や市民センター,病院や介護施設などでも上演しています。紙芝居の楽しみ方は,子どもも大人も変わりません。特に年配の方たちにとっては,紙芝居が懐かしい記憶を呼び覚まし,思い出話のきっかけとなることもあります。

紙芝居の魅力は,演じ手と観客が同じお話の世界で共に楽しむことにあります。人と人との関係性が希薄と言われる時代ですが,紙芝居を通して”言葉と心のキャッチボール” を続けていきたいと思っています。(談)

 

ときわひろみ(常盤洋美)紙芝居作家。福岡県生まれ。1983年『おじいさんのできること』で橋五山賞特別賞を受賞。「みやぎ紙芝居の会」主宰,泉区在住。

《叡智の杜》レポート 「きらめく叡智と美のしずく展 in松島」を開催しました

 平成19年5月26日(土),松島町中央公民館において,平成19年度図書館振興講演会を開催しました。この講演会はより多くの方々に読書活動の重要性 や図書館の意義などについて理解していただき,利用促進を図ることを目的として,松島町及び宮城県図書館が主催したものです。講演会にあわせて 「きらめく叡智と美のしずく展 in松島」と題して,宮城県図書館で所蔵している貴重書のレプリカ展示を行いました。
イタリア人宣教師によって作成された『坤輿万国全図』の他,会場となった松島町に深くゆかりのある”海”をキーワードに,鳥類・魚類の図譜『禽譜』 『魚蟲譜』から「ワシカモメ オオセグロカモメ」「マンボウ」「シロシュモクザメ」「ペンギン」「スッポン」などを展示しました。水族館などでおなじみの魚類 や,姿形がユーモラスな動物の図譜は,来場者の注目を集めました。

▲ページの先頭へ戻る。

図書館 around the みやぎ シリーズ第20回 栗原市立図書館 佐藤 繁美 館長。

 栗原市立図書館の前身は,平成10年に宮城県内10番目の町立図書館として開館した「築館町立図書館」であり,平成17年4月の栗原郡10町村合併により「栗原市立図書館」と名称を変更して開館しました。

図書館前の広場は,地域市民の公園としての役割を果たしており,昼には「滝のあるジャブジャブ池」に子どもたちが集まり,夜には通路に描かれている星座が光り出し,大変幻想的な散策路となります。

人口8万人の市立図書館としては少し規模が小さいのですが,9ヶ所の公民館図書室と連携しながら,現在6名の職員と3名の臨時図書館司書で「市民に愛される市立図書館」をめざし,フル回転をしながら,図書館事業に当たっています。

主な事業としては,毎週土曜日の「おはなし会」や子育て支援センターでの「出前おはなし会」「学級文庫配本」などです。また,宮城県内一の広大な面積のため,移動図書館車「ブッくる号」により地区公民館や小学校など17ヶ所を巡回しています。効を奏して貸出冊数は,合併前の7割増です。今後は,市民平等のサービスを考慮し,各公民館図書室と図書館のネットワーク化を早期に実現し,図書館の蔵書検索ができ,また予約ができるようにしたいと考えております。

また,図書館に隣接して,我が国の代表的な民衆詩派詩人である白鳥省吾記念館があり,誌や文学に関心のある国内外の方々が視察に見えられます。この施設についても図書館が併せて運営しております。

図書館が市民の皆さんにとって,ゆったりとくとろげる,生涯学習の拠点施設となるよう,職員一同毎日仕事に励んでおります。

栗原市立図書館のご紹介。

開館時間 火〜金曜日 10:00〜18:00。土・日曜日 9:00〜17:00。

休館日 毎週月曜日,祝日(祝日が月曜日の場合はその翌日)、年末年始(12月29日〜1月3日)特別整理期間(2月中旬)

交通案内 東北自動車道築館インターチェンジから車で約5分。JRバス築館駅から徒歩約1分。東北新幹線「くりこま高原駅」から車で約10分。

図書館のデータ。

蔵書冊数 89,482冊(平成18年度末現在)。

貸出冊数 170,660冊(平成18年度末現在)。

住所 〒987−2252 栗原市築館薬師三丁目3番1号。

電話 0228-21-1403。FAX 0228-21-1404。

 

▲ページの先頭へ戻る。

わたしのこの1冊 『世界の路地裏 100』 ピエ・ブックス 2005年
人々の暮らし,生き方に思いを馳せて

 この本と出合ったのは最近のこと。ガイドブックや写真集は数多く出版されている中, ”路地裏100”にふと目が止まった。ページをめくって見た。狭い小路の入り口,車が入れないほど細く曲がりくねっている。建物と建物の間の急勾配の石畳や坂道や階段,限りなく澄みきった碧い空と暑さを避ける為の白い壁。時折,海岸からの風で洗濯物がたなびいている。窓辺には赤やピンクのゼラニウムが彩りを添えている。道の奥から子供たちの歓声・・・たぶんパティオで,サッカーで遊んでいるのだろうか。

 ここは閑静な裏通り,夜になるとガス灯が灯り,霧雨で石畳が暗色を帯びている。その先は行き止まりか,それとも異空間なのか空想が膨らみ,つい錯覚に陥る。

 そこに住んでいる住人の声なのか、あるいはレコードなのか。オペラのアリアの一節のように聞こえた。

 以前,訪れた国を思い起こした。寺院の立つ丘から緩やかな小道を下ってくると広場があった。プラタナス並木の側のカフェで若者たちが話し込んでいたり,行き交う人々を眺めながら時を過ごしている老夫婦がいた。それが何故か心に残っている。

 通りから一歩小路に足を踏み入れると,中世を漂わせる風景だ。切り妻屋根の木の梁組みが美しい家並み。屋根の下の凝ったデザインの看板。工芸品やアンティークの店,マリオネットや奇抜な仮面を売る店が並び,楽しい雰囲気を作っている。

 路地裏−地域によってさまざまだが,そこで生活している人々の生き方や暮らし,思いが伝わってくるような一冊である。また,旅をする機会があったら,視点を変えてゆっくりと楽しみながら歩いてみたいと思う。

 今回のこのコラムは久世みどりさんにご寄稿いただきました。

▲ページの先頭へ戻る。

図書館からのお知らせ。

企画展「アヒルと左吾平〜スクリーンの中の宮城のすがた」開催します

 宮城県は豊富な自然や歴史・文化遺産などすぐれたロケーションに恵まれ,映画やドラマなど数多くの映像制作の撮影場所として利用されてきました。映像資料やその原作,また映画の制作風景などから,スクリーンに刻まれてきたふるさと宮城の魅力を再発見するものです。

期  間 平成19 年8月4日(土曜日)から10月4日(木曜日)まで(図書館開館日の午前9 時30 分から午後5 時まで)。

場  所 2階展示室。

入場は無料です

問い合わせ 企画協力班 電話 022−377−8444。

 

平成19年度みやぎ県民大学「叡智の杜を訪ねて」を開催します

 本館職員を講師として,宮城ゆかりの人物やその背景,貴重書を中心とした所蔵資料等を紹介します。

期間 平成19 年9月1日(土曜日)から10月20日(土曜日)まで(午後1時30分から午後3時まで)。

場所 2階ホール養賢堂。

定員 50名。(18歳以上の県民 先着順)

受講料は無料です。

問い合わせ 企画協力班 電話 022−377−8444 FAX 022-377-8484。

この「ことばのうみ」テキスト版は、音声読み上げに配慮して、内容の一部を修正しています。
特に、句読点は音声読み上げのときの区切りになるため、通常は不要な文末等にも付与しています。
「ことばのうみ」は、宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第25号 2007年7月発行。

宮城県図書館

〒981-3205

宮城県仙台市泉区紫山1-1-1

TEL:022-377-8441(代表) 

FAX:022-377-8484

kikaku(at)library.pref.miyagi.jp ※(at)は半角記号の@に置き換えてください。