宮城県図書館だより「ことばのうみ」第78号 2024年7月発行 テキスト版
おもな記事
巻頭エッセイ『ワクワクとドキドキ』 宮城県図書館長 青木 直之
かつて仙台市西公園にあったコンクリート造りの建物。今は「せんだいメディアテーク」に移転した「仙台市民図書館」です。その一階にあった児童図書コーナーに入ると、色とりどりの本が小学生の私を迎えてくれました。
並べられた背表紙を見ながら、お気に入りの本を探す、まるで宝探しにも似た時間。今でも書店や図書館の本棚を眺めていると、時がたつのを忘れてしまうことがあります。
強く印象に残っている本は、「エルマーのぼうけん」、「ツバメ号とアマゾン号」、「名探偵カッレくん」、「ドリトル先生航海記」など。ページをめくるたびに、ワクワクとドキドキとハラハラが止まらず、物語に引き込まれてゆきました。
インターネットが普及するのはまだまだ先であった昭和の時代。本は、見知らぬ世界や冒険に強い憧れを抱いていた子どもにとって、新しい世界を開き、夢を膨らませてくれる大切な宝物でした。
今は、様々なメディアで情報が発信されており、本の持つ役割は減少しているかもしれません。しかし、紙に書かれた文章から、想像力を膨らませていくことは、他では得難い体験であり、心を豊かにしてくれるものと信じています。
さて、宮城県図書館にも、素敵な子ども図書室があります。週末には「おはなし会」も開催されています。豊かな緑に囲まれたデザイン性豊かな図書館ですので、子どもの頃のワクワクとドキドキを思い出すためにも、ぜひ一度お越しください。
著者紹介
青木直之(あおき・なおゆき)
1960年宮城県生まれ。高校時代3年間図書委員を務める。宮城県を退職後、公益財団法人宮城県文化振興財団理事長を経て、2023年4月から現職。
〈特集〉図書資料の簡易修理
宮城県図書館では、年間約30万点を超える貸出があります。それらの資料の中には、1冊で通算300回をも超える貸出のある大人気の図書も多く存在します。それらの図書資料をなるべく多くの皆さまにご利用いただくため、こまめな修理作業は欠かせません。今回は、図書館で日々行われている図書資料の簡易修理作業についてご紹介します。
◆図書資料の簡易修理とは
一般的に市販されている本は、個人が利用するために作成されており、長期・多人数で利用することは想定されていません。そのため、乱暴に本を扱うことがなくとも、資料が利用されればされるほど、ページが破れる・本の背が割れる・ページが脱落するという小さな破損が頻繁に発生します。その際に破損が大きくなってしまわないうちに修理を行い、次の方が利用できるようにする、これを図書館では、図書資料の『簡易修理』といいます。
◆簡易修理に利用される材料
皆さんが破れた紙を補修する際に、セロハンテープで修理を行った経験は無いでしょうか。短期間利用する資料であれば、セロハンテープでもきれいに補修できますが、数年後テープが劣化して剥がれたり、糊の跡が茶色く変色していたという経験がある方もいらっしゃると思います。図書館でも表紙等が破れた本を補修するために、テープを利用しますが、セロハンテープより劣化しづらいポリエステルや和紙を利用したテープで修理を行います。
ページが破れ欠けてしまった箇所の修復には、和紙を利用することもあります。和紙は洋紙より繊維が長く、本の用紙になじみやすいため、本の修理には欠かせません。和紙はそのまま使うのではなく、手でちぎって和紙の繊維を毛羽立てた『くいさき』を作成して使用します。
本の背表紙などを補修する際は、強度があり、加水して濃度の調節も容易なポリ酢酸ビニル樹脂系の接着剤を利用します。木工用ボンドなどでも利用される接着剤ですが、資料の酸化を防ぐため酸性度をより中性に調整した図書修理専用のものを利用します。また、それほど強度を必要としない場合には、でんぷん糊を水で溶かした接着剤を利用します。でんぷん糊は、修理した箇所に水を含ませることにより、簡単に剥がすことが可能で、将来再度修理を行う必要が生じた際に容易に元の状況に戻せるというメリットがあります。
これらのように図書館における修理では、図書資料が長期間利用されることを考慮して、安定・安全な材料を利用して修理を行います。
◆「ページが外れたとき」の修理
それでは、比較的、修理頻度の高い「ページ外れ」の修理をご紹介します。ソフトカバー図書の多くは、本の背を接着剤で固めた「無線綴じ製本」(あじろ綴じ製本)で作成されています。そのため温度変化などにより接着剤が緩くなって、背の部分が割れたり、割れた部分からページが外れたりすることが多く発生します。この時は、外れたページののど部分に接着剤を付けて、外れた部分に挟み込むように修理します。
1.外れたページの「のど」部分切り取り
外れた部分の元の接着剤を除き、新たに塗る接着剤分、前小口が飛び出るのを防ぐため、のど部分を数ミリ切り取ります。
2.接着剤の塗布
きれいになったのど部分に接着剤を塗布します。
3.外れた部分への差し込み
接着剤を塗ったページを外れた箇所に挟み込みます。その際、はみ出た接着剤などで前後のページが張り付かないように剥離紙などを一緒に挟みます。
4.乾燥作業
差し込んだページの接着剤が乾くまで、ゴムバンドなどで固定します。
5.完成
◆「表紙が外れたとき」の修理
ハードカバー図書は、本の表紙と本文部分が外れてしまうことがよくあります。その際に表紙と本体部分を接着剤で直接貼り付けてしまうとページが開きづらくなってしまうため、あいだに「クータ」と呼ばれるボール紙を挟んで修理を行います。クータを挟むことにより、表紙の背部分と本体部分のあいだにすき間ができて、ページを開きやすくすることができます。また、表紙ののど部分など、力のかかる箇所には「寒冷紗」という綿などを粗く織った布を貼り付けて補強します。
1.クータの作成
修理する本の背部分幅を測定し、その幅に合わせたボール紙を三つ折りにして、本の厚さに合わせたクータを作成します。
2.寒冷紗の貼付
寒冷紗をページの高さに切り取り、見返用紙ののど部分に5mm程度、糊を塗布し、重ねて貼り付ける。
3.クータと本体の貼付
本体の背部分に接着剤を塗布し、クータを貼り付ける。
4.見返用紙と本体の貼付
寒冷紗を貼った見返用紙と本体部分ののどに糊を塗布し、見返用紙を本体に貼り付ける。
5.本体と表紙の貼付
クータを貼り付けた本体と表紙の背に糊を塗布して、貼り付ける。
6.寒冷紗と表紙の貼付
寒冷紗を貼った見返用紙と表紙ののどに糊を塗布し、寒冷紗を本体に貼り付ける。
7.乾燥作業
接着剤が乾くまで、ゴムバンドなどで固定します。
8.完成
図書館で日々行われている図書資料の簡易修理の一例について紹介しました。図書館では、所蔵した資料を一人でも多くの利用者の皆さまに快適にご利用いただけるよう保存・修理を行ってます。もし図書館の資料を利用中に破損した場合には、遠慮なくカウンターまでお申し出ください。
多くの方に気持ちよく、長く利用していただけるように、皆さまにもご協力いただきながら、これからも図書館では日々できる限りの修理等を行い、図書館資料を大切に取り扱っていきたいと思います。
◆修理できない図書資料のおはなし
傷んでしまった図書資料の中には、修理することができず、利用もできなくなってしまうものがあります。色が付着したものや、一度水に濡れてしまった紙は、元の状態には戻りません。後にそこからカビが生えて広がってしまう恐れもあります。また、動物が噛んだり突い(つつい)たりしてしまったものも、もう利用することはできません。
これらは、読書中に食べ物や飲み物を側に置かない、雨天の日に持ち歩く時は濡れないようにビニール袋に入れる、ペットが近寄れる場所に本を置かない等のちょっとした注意や心がけで防ぐことができます。
読んでいる本に何か分からない汚れやシミをみつけたら、多くの方は残念な気持ちになると思います。図書館資料を丁寧に扱うことは、自分の後に利用される方へのやさしい心遣いでもあるのではないでしょうか。
こんな名前で呼んでいます-本の構造と名称
地
ちり
天
溝
背(背表紙)
小口(前小口)
平(表紙)
小口(前小口)
帯
のど
地(小口)
天(小口)
しおり(スピン)
ジャケット(カバー)
見返し(きき紙)
見返し(遊び紙)
扉(表題紙)
表紙
クータ
中身
見返し紙
寒冷紗
花布
しおり(スピン)
図書館 around the みやぎ
シリーズ第70回 東北学院大学図書館長 松村 尚彦(まつむら なおひこ)
1886年に仙台神学校として創設され、今年138周年を迎える本学は、図書館も長い歴史をもっています。もっとも古い記録をみますと、1888年にジョン・オールト記念館の一室に書籍室、縦覧室が設けられたことが記されています。そして1926年には、現在も大学の本館として使用されているカレッジ・ゴシック様式の格式ある建物の一室に図書室が作られました。
さらに時代をくだり1985年には、収容冊数約100万冊の規模を誇る中央図書館が完成しました。現在はこの中央図書館の他に、収容冊数約7万冊の五橋コラトリエ・ライブラリー(図書館)があるほか、閲覧機能を持たない泉キャンパス図書資料保存館の3館で図書業務を行っています。
これまで図書館は、研究支援を中心とした働きを担ってきましたが、2022年に新しい図書館長が就任して以降は、「教員、学生、図書館が協働して自律的な学習者を育てる」というビジョンを立てて、教育支援を強化することになりました。このビジョンに沿った施策づくりのために、今教員と職員が協力して、個別の授業に役立つパスファインダー作りや、卒論完成まで継続的に学生を支援するリファレンスのあり方などの研究をはじめたところです。また図書館サークル・ライブスという学生団体を立ち上げ、学生を中心とした図書館イベントの企画・立案にも取り組んでいます。
東北学院大学図書館
蔵書数/1,331,896冊(令和5年3月31日現在)
開館時間/通常期:午前8時30分~午後10時
長期休暇期間:午前9時~午後7時30分
休館日/日曜・休日・本学の指定する休業日
住所/〒980-8511 宮城県仙台市青葉区土樋1-3-1
TEL:022-264-6491/FAX:022-264-6490
図書館員から読書のすすめ
『球審は永野さん』 大園 康志【著】ゆいぽおと【出版】
私は小学生のときから、テレビで高校野球中継を観戦するのが大好きでした。高校野球のテレビ中継が始まると、朝は第1試合から第4試合が終了する夕方まで、外に遊びに行くこともせず、テレビにかじりついて高校生達のプレーを見ておりました。
毎日のように試合を見ていたためなのか、中継で紹介される審判員の方々の名前も自然に耳から脳にインプットされたようで、特に、郷司さん、達磨さん、西大立目さん、そして本書の主人公である永野元玄(ながの・もとはる)さんのお名前は、テレビで見ていた甲子園への憧れやその風景とともに私の記憶の中に今でも深く残るものとなっています。
この本は、永野さんの親戚(永野さんの姪の夫)である大園康志さんが、永野さんが歩んでこられた人生と、甲子園で春、夏合わせて30年間もの長きにわたり、裁いてきた約300もの試合を、球審としての目線でどのような思いをもってジャッジされてきたのかを永野さんから聴き取り、取りまとめたものです。
因みに、本書のサブタイトルにもなっている「神様がつくった試合」とは、高校野球史上最高の試合といわれている、1979年8月16日に行われた箕島高校(和歌山県)と星稜高校(石川県)の延長18回、箕島高校がサヨナラ勝ちを収めた試合のことで、この試合で球審を務めていたのが永野さんであったことは本書を読んで知りました。
「高校野球史上最高」と形容されるこの試合は、両チームの選手等の奮闘があったからこそのものなのですが、球審を務めた永野さんをはじめ、6人の審判員がそれぞれ正確無比なジャッジをされたことも、この素晴らしい試合を作り上げた要因の一つになっていると思います。永野さんは「試合が終わって、周りから見て『今日は審判いたかな?』と思われるような試合ができればベスト。判定に違和感を持たれない安定した運びであったといえるのです。」とおっしゃっていますが、まさしく、この試合は判定に疑義が生じる余地のない、審判、選手、そしてこの試合を見た人達にとっても「ベスト」な試合となりました。
本書は、永野さんが審判員、特に試合の行方を大きく左右する球審としての視点から、先述の箕島対星稜でのエピソードや江川卓投手を擁した作新学院対銚子商業の試合の中で起きた「誤審」についても触れられていて、高校野球ファンには興味の尽きない一冊になっています。野球の審判のみならず、野球自体に興味のある方は、是非、ご一読ください。
資料情報・震災文庫班 髙橋 誠治
図書館からのお知らせ INFORMATION
■企画展 「資料をまもり、つたえる -宮城県図書館の貴重資料保存修復事業-」
宮城県図書館では、およそ6万点の古典籍を所蔵しており、国指定重要文化財・県指定有形文化財に指定されている資料は32件8,078点に及びます。これら貴重な資料の価値を損なうことなく、後世に長く継承するために、宮城県図書館が実施している「貴重資料保存修復事業」をご紹介します。
入場は無料です。ぜひご覧ください。
・期間 令和6年6月1日(土)~8月25日(日)
・場所 宮城県図書館2階 展示室
・お問合せ みやぎ資料室(022-377-8483)
この「ことばのうみ」テキスト版は、音声読み上げに配慮して、内容の一部を修正しています。
「ことばのうみ」は、宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」78号 2024年7月発行。