宮城県図書館だより「ことばのうみ」第79号 2024年10月発行 テキスト版
おもな記事
巻頭エッセイ『五感で読書を楽しめる社会へ』 社会福祉法人宮城県障がい者福祉協会 副会長 伊藤 清市
自宅からほど近い旧図書館の食堂で供されていた「図書丼」。天ぷらを卵でとじた温かな丼が、車いすで榴ヶ岡の坂を上り切った身を癒してくれました。紫山への移転の知らせを聞き、もう味わえないことに寂しさを覚えたものです。
大学在学時、新図書館のバリアフリーについて県からヒアリングがありました。開館数ヶ月前という限られた期間ではありましたが、三階閲覧室のスロープやトイレについて意見させていただき、期せずして開館式典のテープカットの重責を担いました。その後は距離的なこともあり足繁く通うことは少なくなりましたが、訪れた際には宇宙船内にいるような空間の中で、時を忘れるくらい書棚の前にいられる心地よさを感じております。
二〇一九年「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(通称:読書バリアフリー法)が施行されました。障害の有無に関わらず全ての人が読書を楽しめるようにするための法律です。県図書館でも視覚障害者等のために本や雑誌をお読みする音訳サービスや図書館へ出向くことが困難な方への郵送貸出等、様々なサービスを提供されています。
近年、音声と一緒に文字や画像が表示されるデイジー図書や指で読むためのさわる絵本など、五感で楽しめる読書環境も拡大しつつあります。思い出の中にある図書丼の味や匂いが感じられる読書体験ができる日も、そう遠くないかもしれませんね。
著者紹介
伊藤清市(いとう・せいいち)
1973年仙台市生まれ。先天性指定難病として車いす生活を送る。東北福祉大学在学中NPOを立ち上げバリアフリー活動を始める。所属法人副会長の他に東北学院大学、東北文化学園大学非常勤講師。宮城県では平成10年の宮城県移動サービス検討委員会をはじめとして15の審議会等委員を歴任。
〈特集〉誰もが読書を楽しむために
令和元年6月に読書バリアフリー法(正式名称:視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律)が公布・施行されました。この法律では障害の有無に関わらず、すべての人が等しく読書ができる社会の実現を目指しています。
宮城県図書館も、この法律に基づいて様々なサービスを行っています。今回はすべての人が読書を楽しむために、どのようなサービスがあるのかご紹介します。
◆郵送貸出サービス
来館が困難な方のうち、県内にお住まいで身体障害者手帳、戦傷病者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳をお持ちの方、そのほか利用者の実情を踏まえて図書館が判断した方に図書館資料を郵送で貸出すサービスです。図書資料と視聴覚資料を合わせて10点(視聴覚資料は5点以内)を1ヶ月以内で貸出しています。送料は宮城県図書館が負担します。
◆音訳サービス
視覚障害や識字に困難がある方(ディスレクシア等)、寝たきりや上肢に障害があり、ページをめくることが難しい方に、ご希望の資料を音読するサービスです。来館時に直接音訳する「対面音訳」、来館が困難な方に電話で音訳する「電話音訳」があります。また、ご希望の資料をCD(デイジー図書)やカセットテープに録音し、貸出しています。
【デイジー図書】
デイジーとは、Digital Accessible Information Systemの略で、視覚障害者や、通常の印刷物を読むことが困難な人が、利用しやすいように製作された国際標準規格です。この規格に基づいて製作された図書をデイジー図書といいます。デイジー図書には、音声のみが収録された音声デイジーのほか、音声・テキスト・画像などを組み合わせて製作されたマルチメディアデイジーがあります。しおり機能や音声によるガイダンスがあり、専用の再生機や専用ソフトをインストールしたパソコンやタブレット等で聞くことができます。宮城県図書館の蔵書数は多くはありませんが、希望の資料があれば、他の図書館から借り受けて貸出しています。
◆拡大読書器
拡大読書器は「電動虫めがね」のようなものです。読みたいページを開いて読書器の所定の位置に置くとその部分が拡大されてディスプレイに映ります。倍率はいくつかの段階から選ぶことができ、画面の文字が読みにくい場合は白黒反転させて表示することもできます。
視力の弱い方はもちろんですが、新聞などの細かい文字を読むときにも利用できます。
宮城県図書館には3台(新聞雑誌室、一般図書フロア、みやぎ資料室)設置されています。
◆大活字本
大活字本とは、弱視者(低視力者、高齢者など)にも読みやすいように、文字の大きさや行間等を調整し、大きな活字で組み直した本のことをいいます。細かい文字を読むのがつらいときにもご利用いただけます。
◆点字図書
ふだん私たちが目にしている印刷された字を墨字といいます。この墨字で書かれた図書を点訳した本を点字図書といいます。子ども図書室には点字だけでなく、絵の部分もさわれるように印刷してある「点字つきさわる絵本」もあります。目が見えない人だけでなく、見える人もみんなが一緒に楽しめる絵本です。親子や友達と一緒に触れて楽しんでみてください。
◆リーディングトラッカー、リーディングルーペ
何度も同じ行を読んでしまったり、文字が歪んで見えたりする方におすすめなのが、リーディングトラッカーやリーディングルーペです。リーディングトラッカーはマーカー付き定規のようなもので、読みたい箇所にあてて表示することで読みづらさを解消してくれます。リーディングルーペはリーディングトラッカーに虫めがね機能がついたもので、読みたい箇所の文字を拡大表示してくれます。色も数種類用意していますので、読みやすい色をご利用ください。ご希望の際は各カウンターにお申し出ください。館内で利用可能です。
◆コミュニケーションボード
コミュニケーションボードとは言葉でのコミュニケーションが困難な人のためのコミュニケーションツールです。ボードに書いてある文字を指さして意思表示をします。知的障害や聴覚障害のある方だけでなく、日本語が母語ではない方もご利用できます。
◆点字ブロックの設置
点字ブロックは視覚障害者誘導用ブロックといい、視覚に障害のある方を安全に誘導するために地面や床面に敷かれているブロックのことです。バス停「宮城県図書館前」から1階東側入口総合案内まで設置されています。また、点字ブロックだけでなく、エレベーターのボタン部分には点字表記もされていて、視覚に障害のある方でも安心して目的の階に行くことができます。
◆多機能トイレ
多機能トイレとは、あらゆる人が利用できるように作られたトイレのことです。1階西側の多機能トイレはオストメイト対応トイレとなっていて、ストーマ(人工肛門・人工膀胱)を造設した方も気兼ねなく利用することができます。
図書館利用に障害があるということ
「図書館を利用する=本を読む」ことをイメージすると「図書館利用に障害がある=視覚に障害がある」と連想する方もいらっしゃるかと思います。しかし、図書館利用に障害があるということは、視覚に障害があるということだけでなく、様々な要因で図書館に来館することや、予約や延長等の意志表示が難しいことも含まれます。
このような障害がある方もない方も平等に読書が楽しめる環境を今後も整えていきたいと思います。
図書館 around the みやぎ
シリーズ第71回 石巻市図書館 北上分館 石巻市図書館 館長 瀬川 信行( せがわ のぶゆき)
図書館北上分館は東日本大震災前まで、北上川の河口付近の風光明媚な場所に位置していましたが、震災で発生した津波により全壊し、多くの人命が失われました。その後、北上町十三浜の海抜30メートルの高台に場所を移し、北上総合支所と北上公民館、図書館北上分館、北上地区放課後児童クラブ、郵便局が一緒になった複合施設として整備され、令和2年4月13日(月)から供用が開始されています。
北上分館につきましては、令和2年7月から、コロナ禍の中、全面的に通常サービスが再開しております。図書サービスにつきましては、本館と同様のサービスを受けることができ、また、本館にないサービスとして、フリーWi-Fiのサービスも利用できます。広さは、約124㎡で、蔵書に関しましては、一般書、郷土資料、絵本、紙芝居等約7,000冊の蔵書があり、すべて開架されています。また、図書館の奥には、読書ができるラウンジもございますので、お気軽にお立ち寄りいただき、ゆっくりとした時間をすごしていただければと思います。
結びに、皆様のご支援、ご協力のもと9年という歳月がかかりましたが、無事再開することができました、この場をお借りいたしまして改めて御礼申し上げます。
石巻市図書館 北上分館
蔵書数/6,979冊
(令和5年度末時点)
開館時間/月曜日から金曜日まで:午前9時から午後5時まで
日曜日:午前10時から午後5時まで
休館日/土曜日、祝日 ※休館日は変更になる場合があります。
最新の情報は、石巻市図書館HP(https://www.city.ishinomaki.lg.jp/library)などでご確認ください。
住所/〒986-0201 石巻市北上町十三浜字小田93番地4(北上総合支所内)
TEL:0225-67-2712/FAX:0225-25-5242
図書館員から読書のすすめ
『夜、でっかい犬が笑う』 丸山健二 著 文藝春秋 発行(絶版)
みなさん、読書は好きですか?
図書館に勤務している身としては言いづらいのですが、私は子どもの頃から読書が好きではありませんでした。本を読むなら漫画本、そうでなければテレビという子どもでした。文字ばかりの本がいやで、絵のある本を選んでいたのですが、それでも文字は読まずに絵だけ見て、内容はなんとなく想像していました。それで読んだことにしていました。
反対に、2つ年上の兄は読書好きで、たくさん本を読んでいました。勉強もできて優秀だった犬好きの兄が「将来は獣医になる」と言うと、両親は動物関係の本をたくさん買ってあげていました。
私は動物も好きではないし、犬なんて怖くて怖くて…。小さい頃、大きなシェパード2匹に追いかけられ泣きながら必死に逃げている私を見て「お~、速い速い。運動会でもそれくらいで走れよ~。」と、ベランダで笑いながら見下ろしていた母の顔を今でもはっきりと覚えています。
気づけば家には動物の本ばかり。「こんなにあるんだからお前も何か読みなさい!」と言われ、仕方なく薄くて変な題名の本を手に取りました。それが本書です。まともに1冊の本を読み切ったことのない私が初めて読み切った本かもしれません。著者と犬との関わりを綴ったエッセイで、話が短く区切ってあるので読みやすく、あっという間に読み終わったのを覚えています。その時に感じた1冊を読み切る達成感は、その後も私に本との出会いを増やしてくれました。また、いつの間にか私も犬を飼うくらいの動物好きになっていました(環境ってすごいですね)。先日、図書館で借りて数十年振りに読んでみました。今の時代には合わない内容や乱暴とも思える文章で、改めて読むと「なんだこの人は?」「犬に愛情をもっているのか?」と疑問になるところもありますが、当時の私にはそれが新鮮に思えたのかもしれません。
シートン動物記や椋鳩十の「月の輪グマ」、畑正憲(ムツゴロウさん)の小説やテレビも好きでした。「銀牙-流れ星 銀-」や「白い戦士ヤマト」「動物のお医者さん」などの漫画本もたくさん読みました。
気が向いたときにふらっと立ち寄った図書館で、たまたま目についた本を読んでみる。そんな軽い気持ちで本書を手に取ってみてください。動物に興味があれば、私のような読書初心者でも楽しめる本です。
季節は秋。秋の夜長にのんびり読書なんていかがですか?
資料奉仕部 児童・視聴覚班 田崎 源人
図書館からのお知らせ INFORMATION
■企画展 「震災と伝統美 ~能登半島地震の被害と輪島塗の輝き~」
宮城県図書館では、被災地支援として石川県の能登半島地震による被害状況の写真や関連本の展示を行うとともに、伝統的な漆芸品として継承される輪島塗の歴史・技法について紹介する企画展を開催中です。輪島塗の作品の展示も行いますので、この機会にぜひ、輪島塗の特徴である「優美性・堅牢性」をご堪能ください。
・期間 令和6年8月31日(土)から令和6年11月24日(日)
・時間 宮城県図書館2階 展示室
・お問合せ 企画協力班(022-377-8444)
この「ことばのうみ」テキスト版は、音声読み上げに配慮して、内容の一部を修正しています。
「ことばのうみ」は、宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第79号 2024年10月発行。