宮城県図書館だより「ことばのうみ」第69号 2021年7月発行 テキスト版
おもな記事
巻頭エッセイ『北の団地の公民館で』 荒蝦夷 土方正志
図書館には恵まれない少年期をすごした。北海道の奥地で生まれ、札幌近郊に造成中の「団地」に引っ越したのは小学校入学の前年、一九六七年だった。なにせ造成中、原野に点々と家々があるだけ、まこと荒涼たる風景だった。やがて公団アパートや戸建が増え始め、ニュータウンの面目が整ったのはいいのだが、なにせ北海道は広い。各種公共施設がある市街地へはたまに父親のクルマに乗せられて行くだけ、あとは団地内の日常だった。個人経営の町の本屋さんはあったが、新開地らしく古本屋さんはなかった。小学校にちっぽけな図書室はあったが図書館はなかった。ただ、あれは図書館の出張所だったのか分館扱いだったのか、地区の公民館の玄関に本棚がいくつか並んで、受付でその本を借りられた。私の家から公民館まで小学生の脚で三十分ほどはかかった。せっせと雪道を通って借りた本でおぼえているのはヒュー・ロフティング「ドリトル先生」シリーズ、調べてみたら岩波書店「ドリトル先生物語全集」全十二巻(井伏鱒二訳!)だったようだ。読んでは返してまた次を借りて、全巻読破した。小学校の図書室も壁に本棚だけのがらんとしたもので、こちらではそれでも揃っていた少年探偵団にホームズにルパンを読破、いずれ現在の私の読書傾向に繋がっているのは確かだが、もしも立派な図書館や図書室のある環境に育っていたなら、私の好みは違っていただろうか、人生は違っていただろうか。それとも環境が整っていなかったからこその渇望が私を育ててくれたのか。ふとそう思ったりするアラ還である。
著者紹介
土方正志(ひじかた・まさし)
有限会社荒蝦夷代表取締役。1962年、北海道生まれ。東北学院大学卒。著書に『ユ ージン・スミス 楽園へのあゆみ』(産経児童出版文化賞)、『日本のミイラ仏をたずねて』、『てつびん物語』、『瓦礫から本を生む』など。仙台短編文学賞実行委員会代表。宮城野区に〈古本あらえみし〉をオープン。NHKラジオ「ゴジだっちゃ!」で本の紹介を担当。河北新報に「仙台発出版こぼれ話」連載中。読売新聞読書委員も務めた。
〈特集〉東日本大震災から10年 宮城県図書館のこれまでとこれから
宮城県図書館では「東日本大震災文庫」を設置し、東日本大震災関連の資料を収集・整理・保存し、利用者の皆様にご利用いただいています。また、県と県内市町村が連携・協力して構築した「東日本大震災アーカイブ宮城」では、デジタル資料を公開しています。
今回は当館で震災時に行っていた復興支援活動、そして現在も行っている震災伝承活動についてご紹介し、東日本大震災からの10年を振り返ります。
◆地震発生から図書館再開まで
発災時、県図書館には約350名の利用者と98名の職員がいましたが、幸い人的被害はありませんでした。しかし、ガラス及び室内壁面石板等の破損・落下、資料の落下などの大きな被害がありました。特に図書資料については105万点のほとんどが落下し、休館を余儀なくされました。
落下資料の戻し作業、図書資料の配列復元作業等を行い、当初4月下旬の再開を予定していました。しかし、4月7日の余震により約5割の図書資料が再び落下し、開館予定を変更せざるを得なくなりました。
その後再開に向けた復旧作業をあらためて行い、5月13日に開館時間を午前10時から午後6時までに変更して再開しました。
(キャプション)震災直後図書館開架援
◆市町村図書館等への復興支援
県内公共図書館や公民館図書室においても、施設設備の損壊、多数の資料の破損や流失など大きな被害がありました。県図書館では県内内陸部を含め、各館を直接訪問し、個別相談を実施しました。また、津波で建物が全壊した南三陸町図書館や女川町生涯学習センター(公民館図書室)、建物の応急判定で危険度が高いと判定された名取市図書館、七ヶ浜図書センター(公民館図書室)、涌谷町涌谷公民館等へは個別に支援を行いました。
南三陸町図書館については、図書館の再建に向けた企画運営の相談や各種支援団体との連絡調整、図書の整理などの支援を行いました。
(キャプション)南三陸町図書館支援
◆東日本大震災文庫、東日本大震災アーカイブ宮城の公開
震災関連資料の散逸を防ぐため、震災直後から東日本大震災に関する資料の収集を開始し、平成24年7月、当館3階に「東日本大震災文庫」を開設しました。市販されている資料だけではなく、県内各自治体や学校などの各機関で作成した被害の記録や個人の方の体験記等の資料も収集対象としました。中には発災から間もない頃作成されたチラシ、掲示物など当時をそのまま伝える資料もあります。
また、東日本大震災に関する宮城県内のデジタル資料を収集・整理・保存・公開するために、県と県内全市町村が連携・協力して構築した「東日本大震災アーカイブ宮城」を平成27年6月に一般公開しました。資料の収集にあたっては県庁各部局、公立学校、公立病院、県内社会福祉協議会等に広く呼びかけたほか、連携する市町村からも各役場に残っている各種資料や撮影した写真などを提供していただきました。現在約22万7千点(令和3年3月31日現在)の資料を公開しています。
(キャプション)アーカイブトップページ
◆震災関連の展示・広報活動
これまでに当館が行ってきた主な展示・広報活動をご紹介します。
- 東日本大震災文庫展
平成24年2月からこれまでに11回、震災と様々な事柄を組み合わせた展示を行ってきました。令和3年2月には「あの日はいつもどおりのはずだった」というタイトルで、発災から10年、災害への備えを考えていただくために、あらためて当時の状況を伝える新聞や避難所に掲示していた資料等を展示しました。また、1階エントランスの柱に、震災で発生した津波について、推定される高さを掲示しました。
- 東日本大震災文庫ミニ展示
当館3階にある東日本大震災文庫では、約2ヶ月ごとにテーマを設定し、東日本大震災文庫所蔵の資料から選定した20冊程度を展示しています。また、東日本大震災アーカイブ宮城からテーマにあったコンテンツを使用し、作成したパネルも展示しています。
- 第二管区海上保安本部東日本大震災救援記録写真パネル展
第二管区海上保安本部より、東日本大震災直後からの県内各地での救援活動状況等を記録した写真等を東日本大震災アーカイブ宮城に寄贈いただきました。寄贈いただいた資料の利活用と第二管区海上保安本部の活動について周知を行うため、令和3年5月30日まで当館2階展示室前の図書館ギャラリーにおいて写真パネル展示を行いました。
- 仙台防災未来フォーラムへの出展
仙台防災未来フォーラムは、東日本大震災の経験や教訓を未来の防災につなぐため、ブース展示などを通じて防災を学ぶことができるイベントとして、仙台市主催で開催されています。当館では平成28年から令和3年まで5回、ブース展示に参加しました。当館の震災関連事業等の取組を紹介し、資料の寄贈や資料の利活用についても呼びかけました。
◆シンポジウム等での報告・発表
国立国会図書館と東北大学災害科学国際研究所の共催により、年1回開催している「東日本大震災アーカイブシンポジウム」では、これまで東日本大震災文庫、東日本大震災アーカイブ宮城についての事例報告やパネルディスカッションでの意見交換を行 ってきました。令和3年1月に開催されたシンポジウムでは、東日本大震災アーカイブ宮城についてのこれまでの取組とこれからの方向性について報告しました。
また、宮城県教育委員会が実施主体である「みやぎ県民大学」において、「宮城県図書館の震災伝承活動」と題して講座を実施するなどしてきました。
◆これから
震災直後からこれまで収集してきた資料を整理し、県民の皆様に公開し、利用に供することを通じて、震災に関する記憶の風化を防止し、資料の中に込められた想いや記憶を「記録」として永く後世に伝える役目を担っていきます。
宮城県図書館及び連携市町村では、引き続き東日本大震災に関連する記録を収集しています。自治体や報道機関・研究機関等が所有する記録だけではなく、被災した方々や被災地の支援に携わった方々が個人的に保有している写真や動画、文集なども保存すべき大切な記録です。
東日本大震災の記憶を風化させないために、記録に残し未来へつなぐ活動にご協力をお願いいたします。
お問い合わせ先 : 宮城県図書館 震災文庫整備班
TEL:022-377-8498 Eメール:librarysb@pref.miyagi.lg.jp
図書館 around the みやぎ
シリーズ第61回 石巻市図書館 雄勝分館 石巻市図書館 館長 山口 ちえみ(やまぐち ちえみ)
北上川の下流である追波川に架けられた新北上大橋から国道398号を南下し、釜谷トンネルを抜けて左に曲がってしばらく進むと、左手に真新しい道路が見えます。その先の高台に、石巻市図書館雄勝分館が入る複合施設、雄勝総合支所があります。震災後に雄勝地区を訪れたことのある方には、仮設商店街「店こ屋街」があった近辺ですと言うと、わかりやすいかもしれません。
10年越しに再開館した雄勝分館は、両面の木製書架6基と、背の低い片面の物が4基、閲覧席は20席を設けています。入口正面には新着図書コーナーが来るよう資料を配置しました。4月以降、新たに受け入れた図書が順次並ぶ予定です。閲覧席のある窓側はバルコニーへ出入りできるガラス張りになっており、館内から雄勝湾を眺めることもできます。また中心部の天井は他よりも高い作りで、開放感のある明るい図書館となりました。
東日本大震災の津波により雄勝分館が流失したのちは、移動図書館車での巡回や、公民館を窓口として予約・貸出を行うなど、限定的ながら雄勝地区にお住まいの方へ図書館サービスを届けてまいりました。そして被災から10年が経った今年3月、ついに利用者が多くの資料を直接手に取り、読書に親しめる環境が雄勝地区に再整備されました。
この被災以降のサービス、また再建について、全国の皆様からの暖かいご支援があったからこそ実現できたのは、言うまでもありません。
数々のご支援・ご協力に、この場をお借りして改めて御礼申し上げます。
石巻市図書館 雄勝分館
蔵書冊数/3,550点開館時間/9時~17時
休館日/土日、祝日、年末年始
住所/〒986-1335
宮城県石巻市雄勝町雄勝字下雄勝12番地42
TEL:0225-57-3052 FAX:0225-90-3402
図書館員から読書のすすめ
『海賊の日本史』山内譲【著】講談社【発行】
皆さんは「海賊」と聞くとどのような姿を思い浮かべるだろう。大人気漫画『ONE PIECE』のように自由を求めて冒険している姿、あるいは、『パイレーツオブカリビアン』のように大船団を率いて財宝を奪い合う姿といったところであろうか。そんな「海賊」と言われる存在は、日本の歴史の中にも度々登場する。しかし、そのニュアンスは前述したようないわゆる西洋の大航海時代の「海賊」とは少し違う。
本書は、天慶の乱で海賊を率い政府に対抗した平安中期の藤原純友や、毛利氏や小早川氏といった戦国大名と結びついて瀬戸内海の広域を支配した室町後期の村上武吉など、時代をたどりながら、その時々の「海賊」と言われる存在に触れ、日本の「海賊」を追求している。さらに、倭寇との違いや海賊の生業などについても書かれており、歴史について詳しくない人にも触れやすい内容になっている。信憑性のある史料や定説など限られた情報を頼りに追求する一方で、無理に結論づけていないところがまた魅力的であり、今後の歴史研究の伸び代である。
小学生の頃から歴史が大好きであった私は、大学で歴史学を学んだ。専攻は日本中世史、卒業論文は「村上水軍と戦国大名」というタイトルであった。村上氏がいつ誕生したのか、村上氏と大名の関係、戦国代の村上氏の勢力などについて研究をした。
なぜ、その内容を研究したか。入り口はそれこそ『ONE PIECE』である。日本史が好きで『ONE PIECE』が好きであったため、日本の海賊が気になったのだ。戦国時代に特に興味があった私は、戦国時代の海賊について調べようと思い、代表的な戦国時代の海賊、村上氏に目をつけた。和田竜著『村上海賊の娘』という本は知っている人も多いであろう。その村上氏だ。
歴史研究で大切なのは史料の数である。史料が多ければ多いほど、歴史の本当に近づける。故に有名どころで研究を進めた。しかし、村上氏は戦国時代どのような存在だったのか、そもそも日本の海賊ってどんな存在だったのか、そんな疑問が残ったまま研究は終了した。本書はそんな疑問に対して、一歴史好きが納得する回答をくれた。と同時に、私の研究の答え合わせをしているような、そんな気分にもさせられた。
本書は、私のように歴史にどっぷり浸かった人間だけに向けられた本ではない。地図を載せたり、解説をしたりと、歴史研究の分野に触れたことのない人にも分かりやすい内容になっている。日本の海賊とは何か?そんな疑問が湧いたら一度は読んでいただきたい。
企画管理部企画協力班 天野洋介
図書館からのお知らせ INFORMATION
■東日本大震災文庫ミニ展示「2011+10 2021年発行の震災関連資料」を開催中です
宮城県図書館震災文庫整備班では、収集・整理した震災関連資料の展示も行っています。今回は「2011+10」と題して、2021年1月から3月に発行された関連資料の一部を展示しています。東日本大震災から十年の節目に数多くの図書や雑誌が出版されました。どうぞご利用ください。
- 期 間 令和3年6月1日(火)~令和3年7月30日(金)
- 時 間 図書館開館日の午前9時から午後5時まで
- 場 所 宮城県図書館3階東日本大震災文庫
■企画展「みやぎとオリンピック 1964→2020」を開催中です
オリンピック期間に合わせて、1964年及び2020年の東京オリンピックと宮城県の取り組みを紹介する展示を開催しています。それぞれの聖火リレーのルートや、1964年大会で活躍した選手などのほか昨年の3月に県内で展示された「復興の火」についても紹介しています。
- 期 間 令和3年6月5日(土)~令和3年8月29日(日)
- 時 間 図書館開館日の午前9時から午後5時まで
- 場 所 宮城県図書館2階展示室
この「ことばのうみ」テキスト版は,音声読み上げに配慮して,内容の一部を修正しています。
「ことばのうみ」は,宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第69号 2021年7月発行。