宮城県図書館だより「ことばのうみ」第63号 2019年7月発行 テキスト版

おもな記事。

  1. 巻頭エッセイ・特集 
  2. 〈特集〉子どもの本を読んでみませんか?子どもの本展示会 
  3. 図書館員から読書のすすめ
  4. 図書館からのお知らせ 

   

巻頭エッセイ『心の処方薬』小説家 相戸結衣。

 

子供の頃、親の都合で引っ越しが多かった。大人になった今ではそれなりの処世術を身に着けているけれど、未熟な子供が新しいコミュニティに入って行くのは至難の業だった。そんな私を救ってくれたのは、物語の世界だ。

 舞台は、日本のどこかの貧しい村だったり、中世のお城だったり、鬱蒼とした森の中に突然現れた異世界トンネルだったりと、さまざまである。私は主人公と一緒にわくわくしながら冒険をし、ときには大切な人を亡くして悲しみ、最後は奇跡にふるえた。本が私に、広い世界を見せてくれた。

 東日本大震災が起きたのは、父がガンで入院しているときだった。道はでこぼこで、町は真っ暗。テレビでは繰り返し悲惨なニュース映像が流される。私は父に付き添いながら、傍らで物語を綴っていた。「夢物語」と笑われそうな、こてこてのラブコメだ。絶望的な話を書いたら、現実に飲みこまれてしまいそうだった。

 そのとき書いた小説が、とある新人賞で大賞をとり、書籍となって世の中に出た。カラフルな表紙に触れるたびに思う。この物語を必要としている誰かのもとに、届いてくれたらいいなと。つらい現実を、一瞬でも忘れてくれたらいいなと。エンタメ小説は娯楽でもあり、心を癒す処方薬でもあるのだ。

 

著者紹介。

相戸結衣(あいと・ゆい)

宮城県富谷市在住。宮城県第二女子高等学校(現・仙台二華高等学校)、岩手大学人文社会科学部卒業。

『日本ラブストーリー大賞』大賞を受賞し、2013年に『さくら動物病院(宝島社)』でデビュー。

近著に『流鏑馬ガール!~青森県立一本杉高校、一射必中!(ポプラ文庫ピュアフル』がある。

 

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〈特集〉子どもの本を読んでみませんか?子どもの本展示会。

 

子どもの本展示会は、今年度で第50回を迎えました。開催期間が、平成31420日から令和元年510日までと、まさに「平成」最後そして「令和」最初の子どもの本展示会の開催になりました。また50回を記念して、絵本作家のとよたかずひこ氏を迎え記念講演会も行い、多くの方に参加いただきました。たくさんの方々がご来場され、児童書を手に取っていただくことができました。たいへんありがとうございました。


●子どもの本展示会とは?

 展示会は、423日の「子ども読書の日」また、423日から512日までの「子どもの読書週間」に併せて毎年開催しています。図書館はもちろんのこと、学校、地域、家庭など、さまざまな場面での「子どもと本との出会い」に役立つことを目的として、前年に出版された児童書をまとめて展示しています。今年度は、2018年に出版された本の中から2,300冊の本を展示し、新しい本と出会いの場として、また選書の参考としてたくさんの方にご来場いただきました。

 

●子どもの本展示会は大人が見てもいいの?

 展示した本は、0歳から中学生までを対象に出版されたものがほとんどですが、もちろん大人の方もご覧いただけます。保護者の方や子どもの読書活動を推進する方には選書の参考として、また、普段児童書に接する機会の少ない方には、豊かな児童書の世界に触れる機会として興味を持っていただければ幸いです。また、児童資料について研究している大人の方向けの本もあります。

 

●展示会終了後、展示した本はどうなるの?


 終了後は、「移動展示会」として、希望のあった県内の市町村図書館や公民館図書室、小・中学校及び特別支援学校に貸し出されます。そして、それぞれ貸し出された先で本を展示していただき、さらにたくさんの方々に見ていただくようになります。

 

■50年間続く子どもの本展示会

◆はじまりは榴ヶ岡から

  • 17回 子どもの本展示会 :昭和61年(1986年)

 第1回の子どもの本展示会は、昭和45年(1970年)宮城県図書館が仙台市榴ヶ岡にあった時から始まりました。右は榴ヶ岡時代の写真です。3階の文化室を会場にして多数の本を展示している様子がわかります。

 

◆そして現在の紫山へ

  • 29回 子どもの本展示会 :平成10年(1998年) 514日~17

 会場 : 2階ホール養賢堂

 展示冊数約1,400冊、来場者約1,200

 その後、平成10年(1998年)3月に現在の仙台市泉区紫山の地に移転してからも、毎年子どもの本展示会を開催してきました。現在の宮城県図書館が開館して初めての子どもの本展示会が開催されました。

 

◆大震災を乗り越えて

  • 42回 子どもの本展示会 :平成23年(2011年) 610日~623

 会場 : 2階ホール養賢堂

 展示冊数約1,500冊、来場者数約840

  平成23311日に発生した東日本大震災とその後しばらく続いた大きな余震により、宮城県図書館も、所蔵資料や施設設備が大きな被害を受けました。そのため512日までおよそ2ヶ月間の臨時休館を余儀なくされました。しかし、展示会を心待ちにする声を多数いただき、遅れて6月に展示会を開催することになりました。

 

◆ 開放的なエントランスへ

  • 44回 子どもの本展示会 :平成25年(2013年) 426日~58

 会場 : 1階エントランス

 展示冊数約1,800冊、来場者数約2,200

  場所を今までの2階ホール養賢堂から1階のエントランスに移して開催しました。親子でいらした方はもちろんですが、一般の方々にも関心を持っていただき、例年のおよそ3倍の来場者数になりました。

 

◆そして令和の時代へ

  • 50回 子どもの本展示会 :平成31年(2019年) 420日~令和元年510

 会場 : 1階エントランス

 展示冊数約2,300冊、来場者数約3,816

 会期中に記念講演をしていただいた絵本作家とよたかずひこさんの作品コーナーは、子どもたちに大人気でした。また会場では、読み聞かせをする親子、絵本に夢中になる子どもたち、熱心に児童書に見入る大人の方の姿が見られ、それぞれに子どもの本の世界に触れるひとときを楽しんでいる様子がうかがえました。

 

◆― 絵本作家とよたかずひこさん講演会 ―

 日時 : 平成31428日(日)1330

場所 : 2階ホール養賢堂

  絵本作家のとよたかずひこさんは、仙台市出身で多くの人気絵本を書かれています。とよたさんの絵本や紙芝居は、子どもたちはもちろんのこと大人も魅了されてしまいます。それは、とよたさんご自身が体験されたことが本にたくさん盛り込まれていて、親しみやすく共感できるからです。例えば、列車の駅名から想像してできたおはなしのこと、人気シリーズ “バルボンさん” の名前の由来やどんどん膨らんでいく主人公たちの家族構成、講演会で中学生に言われた衝撃の一言など、聞いている私たちが、つい「くすっ」と笑ってしまうような興味深く、おもしろいお話をしていただきました。さらに、シリーズ本が多いのは、細く、でも長く子どもに読み続けられる作品にしたかったから、また、お子さんに楽しんでもらいたいので描き始めたことなど、とよたさんの絵本をみると納得できるお話がたくさん出てきました。そして、お話の始まりや途中、最後にも、7冊の大型絵本や大型紙芝居を読み聞かせしていただきました。とよたさんが読むと、作品の軽快なリズム感や感情が伝わってきて、絵本の雰囲気を直に感じることができました。最後にとよたさんから、かわいらしくあたたかいイラストを丁寧に描いたサインをいただきました。気持ちが明るくなるような楽しく貴重な時間を過ごすことができました。

 

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図書館 around the みやぎ。

シリーズ第55回 女川つながる図書館

女川町生涯学習課社会教育指導員 島貫 貞行(しまぬき   さだゆき)

2011年311日に発生した東日本大震災の津波で女川町生涯教育センター図書室は全ての蔵書約4万冊を流出しました。その後、全国各地の数多くの方々から支援、寄贈をいただき、絵本を中心とした「ちゃっこい絵本館」を2ヶ月後に開設することができました。その後も寄贈をいただくことが続き、震災から1年後には女川町勤労青少年センターに「女川つながる図書館」を仮開館しました。

 そして、2018101日、新たに建設された女川町生涯学習センター内に約45千冊の蔵書を揃え、新たに開館しました。子どもにのんびりと本を読んであげられる読み聞かせコーナーや、静かに読書を楽しめる海の見える窓辺の閲覧席などを設けた、明るく開放感あふれる図書室です。

 特色ある取組みとしては、7年前から「子ども司書養成講座」を行っています。小学46年生を対象に図書館の役割や司書の仕事を学んだり、読み聞かせの体験などをしたりしています。

 毎月購入する図書について、「図書選定委員会」を開催しています。保育所職員、小・中学校の先生、読み聞かせサークルの代表に来ていただき、本の選定や情報交換、要望等を聞いています。

 お近くにお出でになった際は、ぜひお立ち寄りください。

 

女川つながる図書館

蔵書冊数/5万冊

開館時間/平日 : 10時~20時 土日祝祭日 : 10時~17

休館日/毎月最終水曜日 ・ 年末年始

住所/〒986-2261 牡鹿郡女川町女川浜字女川178番地KK-8街区1画地                  

TEL:0225-90-3217 FAX0225-90-3218

 

 図書館員から読書のすすめ。

『旅をする木』星野 道夫【著】 文藝春秋【発行】

「頬を撫でてゆく風の感触も甘く、季節が変わってゆこうとしていることがわかります。アラスカに暮らし始めて十五年がたちましたが、ぼくはページをめくるようにはっきりと変化してゆくこの土地の季節感が好きです。人間の気持ちとは可笑しいものですね。どうしようもなく些細な日常に左右されている一方で、風の感触や初夏の気配で、こんなにも豊かになれるのですから。」この本を読んだ時、私は冒頭から星野道夫ワールドに魅了されてしまった。アラスカの自然をこよなく愛していた著者の優しい人柄が伝わってくる文章だ。星野道夫さんは多くの人々から愛されていたことだろう。

 この本『旅をする木』は、写真家でも知られる星野道夫さんがアラスカの自然に魅せられ、そこに移り住んで経験したアラスカでの生活などを綴った一冊である。アラスカの力強く壮大な大地や海の風景が目に浮かぶ。まるで、アラスカの大地を一緒に旅をしているかのような不思議な一冊である。著者がアラスカで暮らすことを決めたのは二十二歳の頃。アラスカ大学への入学試験の点数が足りなかったが、極北の自然についてじっくり取り組みたいと考え、学部長に頼み込んで入学を許可してもらったそうである。きっとアラスカでの生活は、私たちが考えている何十倍も人は自然の中で生かされているということを意識させられるに違いない。

 私は旅行記を読むのが好きだ。自分の知らない場所へ連れていってくれ視野を広げてくれるような気がする。読んだ後は、自分がちっぽけな世界しか見えていなかったことを思い知らされる。毎日が刻々とすぎていく中で、私たちが自然を意識することはどのくらいあるだろう。アラスカにいる星野道夫さんから手紙を受け取ったような気分になれるこの一冊をおすすめしたい。忙しい人にこそぜひ手にとって欲しい本である。たまには忙しい日常から離れ、ゆったりと流れるアラスカでの時間を共有してみてはどうだろうか。

 (資料奉仕部 一般図書班 清水 萌美)

 

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図書館からのお知らせ INFORMATION。

■企画展「いがらしみきお展」を開催中です

宮城県は数多くの漫画家が活躍されています。そんな宮城県出身で仙台市在住の漫画家・いがらしみきお先生が今年で漫画家生活40周年を迎えられました。それを記念し、先生の著作や関連資料をご紹介しています。また、昨年当館に寄贈されたサイン色紙も初公開しています。ぜひお立ち寄りください。

・期間 令和元年615日(土)~令和元年98日(日)

・時間 図書館開館日の午前9時から午後5時まで

・場所 宮城県図書館2階 展示室

 

■平成31年度みやぎ県民大学「災害・防災を知る ~様々な視点から~」受講者募集

 今年度は災害や防災をテーマに全4回の講座を行います。教育の現場や歴史的観点など異なる視点で災害や防災を捉えます。

皆様のご参加をお待ちしています。

 ・日程・内容

1回 令和元年824日(土)「高等学校における防災減災教育の取組」

2回 令和元年97日(土)「県立測候所物語―近代宮城の気象観測と災害」

3回 令和元年921日(土)「文化遺産の防災・減災~よりよい復興のために」

4回 令和元年105日(土)「宮城県図書館の震災伝承活動」

・時間 午前1030分から午後0時(第1回・4回は開講式・閉講式のため午後015分まで)

・会場 宮城県図書館2階 ホール養賢堂

・定員 50名(先着順・事前申し込みが必要です。)

詳しくは、宮城県図書館ホームページ(http://www.library.pref.miyagi.jp/)をご覧ください。

 

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この「ことばのうみ」テキスト版は,音声読み上げに配慮して,内容の一部を修正しています。
特に,句読点は音声読み上げのときの区切りになるため,通常は不要な文末等にも付与しています。
「ことばのうみ」は,宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第63号 2019年7月発行。

宮城県図書館

〒981-3205

宮城県仙台市泉区紫山1-1-1

TEL:022-377-8441(代表) 

FAX:022-377-8484

kikaku(at)library.pref.miyagi.jp ※(at)は半角記号の@に置き換えてください。