宮城県図書館だより「ことばのうみ」第54号 2016年6月発行 テキスト版
おもな記事。
巻頭エッセイ 『としょかんやさん』絵本作家 あいはらひろゆき
小さい頃から本が大好きだった僕は、「あなたの夢は?」と聞かれると、いつも「ほんやさんになること」と答えていました。本屋さんになれば、好きな本がいつでも思う存分読めると思ったのです。でもある日、母に「本屋さんは本を売るところだから、あなたの好きな本はみんな買われてしまうのよ」と教えられて、大ショックを受けました。あまりのショックに、その晩、僕は悪夢にうなされました。こわーいお化けが大切にしていた絵本を次々と食べてしまうという夢です。泣きながら目を覚ました僕は、早速夢の話を母にしました。自分の話に子どもがショックを受けたと知った母はちょっと後悔したのか、「それじゃあ、本屋さんじゃなくて図書館屋さんっていうのはどうかしら?」と僕に言いました。
「図書館屋さんなら、あなたの大好きな本を友だちが読んで、またあなたのところに返しにきてくれるわよ。そして、その本のお話を一緒にたくさんできるのよ」。まだ図書館の存在をよく知らなかった僕は、それを聞いて心からワクワクしました。それ以来、「あなたの夢は?」と聞かれると、僕は「としょかんやさんになること」と答えるようになったのです。いつのまにか、僕の夢は本を読むことから本を書くことに変わっていましたが、今でも図書館で働いてる人を見ると、ちょっとうらやましくなってしまうのです。
〈特集〉音訳サービスってなに?
平成28年4月1日から、障害者差別解消法(正式名称:障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)がスタートしました。
この法律では、不当な差別的取扱いを禁止し、合理的配慮の提供を求めています。合理的配慮とは、年齢、性別や障害の状態に応じて必要な対応をすることで、たとえば車椅子の方が移動できるようにスロープを設置したり、耳の不自由な方に筆談や手話を使って会話したりすることなどがあげられます。この法律により、障害のある人もない人も共に暮らせる社会を目指しています。
宮城県図書館では、どなたでも御利用いただけるよう、さまざまなサービスを行っています。その中で、主に目の不自由な方へのサービスとして、「音訳サービス」というものがあります。
「音訳」とは?
「音訳」とは「書かれている内容をそのまま音声に置き換える」ということです。書いてあることを声に出して読む、という点では「朗読」と何が違うのだろうと思うかも しれません。「朗読」は、詩歌や文章など、その内容をくみとり情感を込めて読み上げるものですが、朗読者によって解釈の仕方が違い、表現方法も異なります。それが朗読の醍醐味でもありますが、ややもすると読み手の感情を押し付けられているような感覚を聞き手に与えかねません。そこで、「音訳」という考え方が生まれました。「書かれている内容をそのまま」感情を過度に込めず、「聞き手の目の代わりとなって」書かれていることを書かれているとおりに伝えるというものです。そのために音訳者が心がけていることがあります。
・「正しく」伝える 本は「情報」です。間違った情報を伝えることは避けなければなりません。誤読は許されません。また、音訳者の解釈で字を飛ばしたり、別のことを付け加えることもできません。さらに、字を理解していても発音やアクセントが違っていては伝わりません。特に、日本語は同音異義語が多い言語です。アクセントの違いで内容が全然違うものになりかねません。
・「わかりやすく」伝える 専門用語や写真、グラフ、表などは、耳から聞くだけでは分かりづらいこともあります。そのような場合は、わかりやすく説明を加えることもあります。
・「聞き取りやすく」伝える 正確に読んでも、声の大きさが一定ではなかったり、雑音が入っていたりしては聞き取りにくいものです。音量に注意し、雑音を起こさない方法を技術として身につけていく必要があります。
音訳されたものは、録音図書(カセットテープやCD、DAISY(デイジー)図書など)として提供されています。
※録音図書
主に視覚障害者のために製作された、資料を音声化してカセットテープやCDなどに録音したものを録音図書といいます。市販されている朗読テープやCDとの違いは、写真、 グラフや語句の説明(処理)に配慮がされていることです。以前はカセットテープが主流でしたが、1本の録音時間が短いため、場合によってはひとつの資料が何本ものテープになってしまうことがありました。そのほか、カセットデッキへの出し入れが頻繁、郵送時にかさばる、テープが切れるなどの短所をクリアしたものがデイジー図書です。
県図書館では、請求記号にCTSと表記のあるカセットテープについては、視覚障害者だけでなく、ページをめくれないなど「文字を読むことに障害がある方(一時的な場合も含む)」にも貸出ししています。また、本館に所蔵がない録音図書については、他の図書館から借り受けて貸出ししています。
※デイジー図書
デイジー(Digital Accessible Information System)とは、音声資料、あるいは音声・テキスト・画像などを組み合わせたマルチメディア資料の国際標準規格の名称です。この規格に基づいて製作された図書をデイジー図書といいます。
見た目は普通のCDなのですが、CDプレイヤーで聞くことはできません。専用の再生機か、専用ソフトをインストールしたパソコンで聞くことができます。 デイジー図書の特色は①容量が大きい(最大45時間)、②頭出しが容易(セクションやフレーズという単位で区切られているため)、③しおり機能、④音声によるガイダンス機能など、さまざまな点でカセットテープを超えた機能を持っているということです。これにより、長編の作品や辞書類などカセットテープには不向きだった資料が製作できるようになり、 利用も便利になりました。
本館ではデイジー図書は所蔵していませんが、他の図書館から借り受けて貸出ししています。
宮城県図書館の音訳サービス
県図書館では、目が不自由な方を対象に音訳サービスを行っています。図書館所蔵資料のほか、お手持ちの電化製品の取扱説明書などもお読みします。
来館された方に直接お読みしたり、電話でお読みしたりするほか、県内の情報誌や読物誌の中から、許諾をいただいたものをCD(デイジー図書)に録音し、「声の情報誌」として貸出ししています。また、この「ことばのうみ」も音訳をしています。そのほか、個人的に御希望の資料を録音し、貸出しするサービスも行っています。
音訳サービスの大半は、音訳ボランティアのみなさんにより行われています。ボランティアのみなさんは、半年間で約10回の専門講座を受けて技術や心構えをマスターし、音訳に臨んでいます。
★サピエ図書館
「サピエ」は、視覚障害者や活字による読書に困難のある方々に対して点字、デイジーデータをはじめ、暮らしに役立つ身近な情報などのさまざまな情報を提供するネットワークです。日本点字図書館がシステムを管理し、全国視覚障害者情報提供施設協会が運営を行っています。 サピエのサービスの一つであるサピエ図書館では、会員登録することにより点字・デイジー図書のデータをダウンロードすることができます。また、サピエ上にデータがなくても、各館が所蔵する資料をオンラインリクエストで利用できます。県図書館では、今年度会員登録をする予定です。
★音訳サービスをされているボランティアのみなさんの声を紹介します。
・電話による音訳を始めて今年で4年目になります。もともと話すことを仕事にしていたので、音訳なら自分のキャリアを活かせるのではと思っていましたが、始めてすぐに自分の勉強不足を痛感しました。今でも電話の向こうの相手と共に学びあっていると感じています。相手の心を曇らせないように、ということを心がけ、音訳に臨んでいます。
・以前は他の図書館で別のボランティアをしていましたが、これまでやったことがないことを経験したいと思い音訳ボランティアを始めました。普段から、言葉遣いや発音・アクセントに気をつけています。自分が音訳することで新しい録音図書が出来上がり、それが人の役に立っていると感じることができるのがうれしいです。
・声に出すことによって、目で読んでいたときには気付かないことにも気付かされます。同音異義語など、アクセントや文章の区切り方で意味が理解できなくなるものもあるので、音訳の時には特に気をつけています。利用されている方からのご意見を直接聞く機会はありませんが、職員を通じて録音の依頼があると、聞いてくださっている方がいるのだなと実感します。
図書館 around the みやぎ
シリーズ第47回 多賀城市立図書館
多賀城市立図書館 館長 照井 咲子(てるいさくこ)
多賀城市立図書館は平成28年3月21日に仙石線多賀城駅前にリニューアルオープンいたしました。図書館だけでなく、書店やカフェも併設した新しいスタイルの図書館です。
フタ付きの飲み物でしたら自由にお持ち込みいただき、楽しむことができます。
「家」をコンセプトに、1階はリビング、2階は書斎、3階は学習室としての機能を果たすよう利用者とスタッフが共に成長を続ける図書館を目指した取り組みを行っていきたいと考えています。
また、おはなし会をはじめ親子で参加できるワークショプなど様々な分野のイベントにも力を入れています。図書資料を借りるだけでなく長時間滞在型の図書館として、「夢やあこがれ」を育む場でもありたいと願っています。
より多くの方に図書資料と出会う機会を提供できればと、常設も合わせ9ヶ所のコーナーを展開しています。ご来館の折は、是非全てのコーナーをご覧になってみてください 。きっと、新しい発見があるかもしれません。
どこにお住まいの方でも、利用登録頂くと資料の貸出ができます。
遠方からでもご利用いただけるよう、全国一律500円にて宅配返却のサービスもご用意しております。東北初の新たな出会いの場として皆さまのご来館をお待ちしております。
多賀城市立図書館
蔵書冊数/約23万冊
開館時間/9:00から21:30
●休館日/年中無休
住 所/〒985-0873 宮城県多賀城市中央2丁目4-3
TEL 022-368-6226
FAX 022-368-6227
図書館員から読書のすすめ
『牛への道』 (宮沢章夫 [著] 新潮社 [刊])
「おすすめの本を紹介してほしい」 そう言われて一番はじめに思い出したのがこの本でした。昨年度私が読んだ数少ない本の中で一番印象に残ったこの本。先輩にはタイトルを見てすぐに、「牛? ベコの本ですか? 農業高校に勤めていたからですか?」と言われてしまいましたが、実は牛とはほぼ関係がない、エッセイの本なのです。
著者の宮沢章夫さんは劇作家。1992年に『ヒネミ』によって、第37回岸田戯曲賞も受賞している著名な劇作家さんです。その活動の傍ら、新聞や雑誌、インターネット等、様々な媒体でエッセイも書かれており、その作品はとてもユーモアに富み、それでいてシュールな作風です。 エッセイのテーマのほとんどが日常の中にあるものに対する考察。英和翻訳サービスが出した日本語の文章の奇妙さや、工業機械の広告の特殊な世界観、カーディガンを着る悪党はいないのか? 悲しい場面で美しく上げられたバレリーナの足には何の意味があるのか…等々。こうやって内容を書き出してみると、「それがどうした」と言われてしまうようなことばかりですが、そんなテーマを面白おかしく、それでいて鋭く斬っていくのが宮沢流。1つのエッセイは短いながらも、コントを見ているような気分になる作品が1冊にたくさんつまっており、読み応えもバツグンです。
忙しく生きている日々の中で、普通の人間ならするりと通り過ぎてしまうような物事を立ち止まって考え、表現する。それだけのことがこんなに面白いなんて。日々の中にこんなに面白いことがあったのかと驚いてしまいます。劇作家である宮沢さんの視点を盗み見させてもらっている、そんな気分になる本です。
生活の中の小さなものごとに対する見方を深くしたり、鋭くしたり、今と少し変えるだけで、今の世界にも新しい何かが見えてくるかもしれません。新しい見方を取り入れて、笑って過ごしてみませんか?
(資料情報班 郷土資料担当 高橋 麻衣子)
図書館からのお知らせ INFORMATION
夏休み図書館親子ツアーのお知らせ
普段は入ることの出来ない図書館の裏側を御案内します。親子で図書館を探検してみませんか。
日 時: 1回目 平成28年8月4日(木曜日) 午前10時から正午まで
2回目 平成28年8月6日(土曜日) 午前10時から正午まで ※両日とも内容は同じです。
定員・対象: 定員は各回親子10組です。小学1年生から小学 3年生のお子さんがいる家庭が対象です。
※応募者多数の場合は抽選になります。
申込方法: 館内もしくは、宮城県図書館HPで配付している案内チラシ記載の申込書にご記入の上、直接持参、郵送、FAX、メールでお申し込みください。
募集期間: 7月5日(火)から7月17日(日)まで(必着) ※参加決定者には、7月20日頃に通知文を発送します。
詳細は、宮城県図書館HP(http://www.library.pref.miyagi.jp/)を御覧ください。
「震災ナビ」を御活用ください
「震災ナビ」は、東日本大震災アーカイブ宮城に格納されたコンテンツを実際の現場で体験するためのアプリです。タブレット(iPad等)、スマートフォ(iPhone,Android)で御利用いただけます。
「震災ナビ」の主な機能は二つに分かれています。
●コンテンツナビゲーター:地図上でコンテンツコンテンツを検索し、AR(Augmented Reality:拡張現実)の技術を使った矢印での道案内を行う機能です。
●津波シミュレーター:東日本大震災当時の津波の「高さ(浸水深)イメージ」を本アーカイブに格納されている写真資料等の位置(フィールド)において現実の映像に重ね合わせる機能です。
利用方法は、以下のとおりです。
・GooglePlay又はiTunesStoreからアプリをダウンロードする(無料)・ダウンロードしたアプリを起動、GPSを作動させる
・「コンテンツナビゲーター」を選択すると、現在地の周辺に存在するコンテンツが表示されるので、選択します。選択すると、その地点までナビゲートされます。「津波シミュレーター」を選択すると、現在地の東日本大震災時の津波の高さ(浸水深)が再現されます。
《叡智の杜》レポート 「第47回子どもの本展示会」を開催しました。
平成28年4月23日(土)から5月12日(木)まで、当館1階エントランスホールにおいて、「第47回子どもの本展示会」を開催しました。この展示会は、社団法人読書推進運動協議会主催の「こどもの読書週間」にあわせて毎年開催しているもので、図書館、学校、地域、家庭など、様々な場面での「子どもと本との出会い」に役立つことを目的としています。
今回は、本館が所蔵している2015年に出版された児童書や絵本などのうち約1,800冊と、児童資料研究書、2015年児童文学賞受賞作品、子ども図書室の職員がおすすめの本を紹介する小冊子『小中学生のための読書案内 本のいずみ(平成28年度版)』で取り上げた本などを展示し、会期中は延べ4,831人に御来場いただきました。会場では、読み聞かせをする親子や絵本を夢中で読みふける子どもたちの姿が見られ、それぞれに豊かな子どもの本の世界に触れるひとときを楽しんでいる様子がうかがえました。
なお、この展示会で展示した本は、「移動展示会」として、県内の希望する図書館、公民館、小・中学校で順次展示します。子どもたちだけではなく、保護者の方や、子どもの読書を推進する立場の大人の方々には選書の参考として、普段児童書に接する機会のない方には豊かな児童書の世界に触れる機会として、興味を持っていただければと思います。
この「ことばのうみ」テキスト版は,音声読み上げに配慮して,内容の一部を修正しています。
特に,句読点は音声読み上げのときの区切りになるため,通常は不要な文末等にも付与しています。
「ことばのうみ」は,宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第54号 2016年6月発行。