宮城県図書館だより「ことばのうみ」第52号 2015年9月発行 テキスト版

おもな記事。

  1. 巻頭エッセイ 『本の思い出』 佐藤信介
  2. 〈特集〉「図書館の自由に関する宣言」と 映画 『図書館戦争』
  3. 映画『図書館戦争 THE LAST MISSION』ロケ撮影
  4. 図書館 around the みやぎ
  5. 図書館からのお知らせ

巻頭エッセイ 『本の思い出』佐藤信介

 私が育った広島県比婆郡(現・庄原市)は、中国山地のただ中で、山々に囲まれた真の田舎だ。子どものころ、近くに本屋らしい本屋はなく、車で三十分ほど山を下ったところに、文具と共に僅かに本を売るお店が一軒あるのみだった。欲しい本を買おうと思えば、さらに二時間はかかる山道を車でうねうねと抜け、福山という街へ行かなければならなかった。一ヶ月か二ヶ月に一度、親に連れられ福山へ行き、そこで本を買い溜めして帰っていた。そんな訳で、学校の図書館は、普段本を自由に読むことのできる唯一の場所だった。ホームズや江戸川乱歩、どこの国の誰が書いたともつかぬ、古い古いSF小説など、楽しみに読んだ。新書はあまりなく、ほとんどが、ずっと昔からこの田舎に暮らす学生たちに読み古された本だった。この地に住んだ学生の、唯一の楽しみとして読み継がれてきた痕跡が、変色したページの隅々に染みていた。
 ネットもなければ、テレビだって民放が二局しかなかった当時の中国山地。本がもたらしてくれる世界は、それだけに広大で深淵だった。ワクワクしたりドキドキしたりゾッとしたり、図書館の古い本の茶色いページから、無限の世界を見ていた。
 あのころ本から得たものは、「空想力」に尽きる。文学であったり、思想であったり、あるいは好きな映画についての本、つまりは知識を漁り始めたのは、高校から、寮生として、広島市に暮らすようになってからのことだ。しかし私にとって本の思い出をあげるなら、あの溢れる自然の風景の中で読んだ、古い図書館の本以上のものはない。
 あの、誰が書いたともしれない、古い空想小説が、今でも胸の中の奥深くに宿っている。

著者のご紹介。

佐藤信介(さとう・しんすけ)
映画監督・'70年生まれ。武蔵野美術大学在学中にPFFでグランプリ受賞。'01年に『LOVE SONG』で監督メジャーデビュー。『COSMIC RESUCUE』('03年)『砂時計』('08年)、『GANTZ』前・後篇('11年)、『図書館戦争』('13年)等、数々のヒット作を生み出している。最新作に『図書館戦争 THE LAST MISSION』('15年10月)、次回作『アイアムアヒーロー』 ('16年)が控える。

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〈特集〉「図書館の自由に関する宣言」と 映画 『図書館戦争』

図書館の自由に関する宣言

図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする。
この任務を果たすため、図書館は次のことを確認し実践する。

第1 図書館は資料収集の自由を有する
第2 図書館は資料提供の自由を有する
第3 図書館は利用者の秘密を守る
第4 図書館はすべての検閲に反対する

図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。

図書館における最も基本的な運営方針

 「図書館の自由に関する宣言」(以下、「自由宣言」)とは、1954年に日本図書館協会で採択された、図書館の運営における基礎的な方針とされている宣言です。

 戦前の出版物は、当時の出版法に基づき、発行される前に検閲を受けました。当局のチェックにより、体制にとって不都合があるものは「発売頒布禁止(発禁)処分」とされ、許可を得たものだけが流通しました。既に流通した出版物であっても、社会情勢に応じて内容がふさわしくないとされると遡って発禁とされました。発禁となった本は、書店で差し押さえられたり、図書館で閲覧禁止にされたりしました。
 そのような言論統制の時代にあって、戦前・戦中の図書館は、国民に対する「思想善導」機関として機能することが求められていました。発禁処分を受け入れ、国策に沿った「優良図書」の奨励をおこなうことによって、国民を都合のよい思想に導くことを目的としていたのです。また、図書館を利用した人が、どのような本を読んでいたのかという閲覧記録は、統制機関により国民の思想に関する調査に利用されました。
 これらの歴史が行き着いた悲劇的な結末を反省し、1953年、日本図書館協会は、「図書館憲章」の制定を決め、憲章案を公表しました。そして、1954年5月26日から3日間にわたって開催された全国図書館大会および日本図書館協会総会において、「図書館の自由に関する宣言」が採択されました。 

憲法で定められた「表現の自由」と「知る権利」

 戦後の新憲法は、第21条で「表現の自由」が保障されることを定めています。「表現の自由」とは、私たちが持っている思想や意見等を、権力によって妨げられることなく発表できる自由のことです。民主主義は、一人ひとりの国民が自由に意見を交換し、議論することによって実現されます。もしも、ある意見だけが封じ込められたら、私たちは特定の意見に偏って物事を判断しなければならなくなります。
 また民主主義には、伝える人だけでなく、情報を受け取る人の自由も必要です。知りたいと思ってもそれが許されない環境にあったら、真に民主主義が実現できているとは言えません。世の中に発表された意見を妨げられることなく受け取る自由が民主主義には不可欠であるとして、「表現の自由」から導き出されるのが「知る権利」です。
 図書館は、国民の「知る権利」を守るために、ひいては民主主義を守るために非常に重要な役割を負っています。この役割を果たすために、外部から介入されることなく、中立的な立場から様々な思想や意見の著作物を集め、誰にでも提供することが求められます。そのために必要な図書館の使命と運営の指針を簡潔に表したのが、自由宣言と言えます。

利用者の「思想・良心の自由」を守る 

 1954年の採択時に、現在の自由宣言の第3「図書館は利用者の秘密を守る」は、主文に含まれていませんでした。追加のきっかけとなったのは、1967年にテレビ局が図書館を舞台として制作した刑事ドラマでした。犯罪捜査のために、図書館の読書記録が使われるというシナリオが予定されていたのです。図書館関係者は、過去の歴史と図書館の使命から、テレビ局に修正を求めました。そして、改めて自由宣言の重要性とその改訂の必要性も認識しました。憲法第19条に「思想・良心の自由」が定められているように、図書館を利用する人たちのプライバシーも保護されなければならないのです。1979年、主文4条とその理念を説明する副文が採択され、自由宣言は現在の形になりました。

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映画『図書館戦争 THE LAST MISSION』ロケ撮影

 2015年1月22月から2月4日の蔵書点検期間を利用して,宮城県図書館を舞台に,映画『図書館戦争THE LAST MISSION』の撮影がおこなわれました。小説『図書館戦争』シリーズ(有川浩/著)が原作で、実写映画化の第2作目となります。著者の有川氏は、図書館の自由に関する宣言を見て本作品の着想を得たと語っています。
 公序良俗を乱し人権を侵害する表現から青少年を保護するために「メディア良化法」が成立し、武力を伴うメディア規制が横行する近未来。検閲実行部隊「メディア良化隊」による、図書館や書店における問題図書の取り締まりが日常として描かれます。そのような状況で、国民の「知る権利」を守るために対抗する組織が、図書館の防衛部隊「図書隊」というわけです。
 宮城県図書館の様々な場所で、図書隊とメディア良化隊の攻防が撮られました。中でも圧巻なのが、3階閲覧室における銃撃戦です。鳴り響く銃声とともに多くの本が飛び散る映像は、「知る権利」が踏みにじられる、あってはならない未来を暗喩しているようで、撮影用の本だと分かっていても胸が締め付けられます。
 メディア良化隊に追い詰められながらも必死で本を守ろうとする図書隊の姿は、「知る権利」を守る図書館の使命を体現しています。普段あまり意識することがない私たちの「知る権利」について、ぜひ映画をご覧いただきながら考えてみてはいかがでしょう。 

図書館 around the みやぎ シリーズ第45回 角田宇宙センター図書室
角田宇宙センター 所長 野田 慶一郎(のだ  けいいちろう)

 角田市に宇宙航空研究開発機構(JAXA)の事業所のひとつ、角田宇宙センターがあるのはご存じでしょうか?
 ロケットを打ち上げるために必要なエンジンの研究開発や小惑星探査機「はやぶさ」のように宇宙から大気圏に戻ってくるときの再突入に関する研究などを行っています。当センターの中にも図書室があり、宇宙航空に関する国内外の図書や雑誌、学協会誌、レポート類を収集・所蔵しています。昭和43年に開室し、現在ではおよそ30,900冊の蔵書を保有している宇宙航空関係の専門図書室です。当センターの研究者だけでなく、大学やメーカーなどの関係者のみなさんにもご利用いただいています。専門図書室であることから、物理・工学系の図書・雑誌などがほとんどを占めていますが、一般の方々もご利用いただくことができます(守衛所にて簡単な入構手続きは必要となります)。
 また、専門図書以外の図書や雑誌も宇宙開発展示室でご覧いただくことができます。こちらでは、宇宙やロケット、宇宙飛行士などに関する子ども向けの読み物や図鑑の他にも大人向けの本もございます。お越しの際には、これらの図書だけでなく、宇宙開発展示室もどうぞご覧ください。ロケットエンジンの実物展示の他、模型やパネル、DVDなどで仕組みを分かりやすく紹介しています。図書や雑誌と一緒に展示室をご覧いただくと、宇宙開発に関してよりご理解いただけるものと思っております。

角田宇宙センター図書室の概要

蔵書冊数/30,900冊(2015年3月末現在)
開館時間/9:30~17:45
閉館日/土日祝日,年末年始
住  所/宮城県角田市君萱字小金沢1
TEL 0224-68-3111
FAX 0224-68-2860

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図書館員からの読書のすすめ『日本武将100選』(日本史蹟研究会/著,秋田書店) 

 学校の授業の中で何よりも一番好きだった教科は社会科でした。小学生の頃は地図や図鑑、資料集があれば時間を忘れ、一日中眺めていても全く飽きないほど…。それ故に、その当時流行し始めたテレビゲームも、私が好んだジャンルは歴史を題材にしたシミュレーション系、特に戦国時代が舞台のものに熱中しました。
 ゲームでは実在の武将たちを動かしながら、その時代を仮想体験するというもので、もちろん、その時代を実体験するにはかなり簡易的なものではありましたが、私にとってその時代背景や登場する武将が実際はどんな人物でどう活躍したかについて興味を抱き、探り始めるきっかけとなりました。
 子供の頃は、私の育った地域には書店等もなく、学校の図書室で伝記などを読むかテレビで歴史関連番組やドラマを見ることで何とか情報収集をする日々を送っていました。しかし、本の著者や番組の趣旨によって同一人物であっても評価が極端に異なる事に違和感を覚え出しました。いくら主役を引き立てるためとはいえ、性格の良し悪しや能力の有無、さらには成果の表現までもがこんなに変わるものかと…。
もう少し客観的に表現している本はないものか。そこで出会ったのが今回ご紹介する『日本武将100選(日本史蹟研究会/著)』です。通っていた高校の図書室で偶然見つけたこの本は、坂上田村麻呂をはじめ各時代で活躍した武将を100人厳選し、それぞれの逸話や功績などを淡々と紹介したものでした。
 出版も古く、今となっては何の変哲もない内容なのですが、当時の私は、敵役を貶めること、視点や表現の違いによって人物評が全く違ってしまうことに嫌悪感を抱いていたので、主役となる100人だけでなく、紹介文で登場する他の武将についても貶めるような記載はなく、とても読み心地が良かったことを今でも覚えています。
 それまで知らなかった武将の活躍や逸話、伝説を知ることが出来たことも嬉しかった事ではありますが、亡くなった祖父から3~4歳頃に何度も聞かされた話を思い出しました。「敵に塩を送る」。その頃は祖父が何を伝えたかったのか全くわかりませんでしたが、「たとえ争った間柄であっても、相手が困っていたら助けてあげなさい」ということだったのかと気づくと涙がにじみました。
 一時代を彩った武将たち。有名無名を問わず、今に生きる教訓や逸話を残しています。先の見えない乱世を生き抜いた先人たちの知恵を拝借するため、読書で明日への光を求めてみませんか。

児童・視聴覚班 佐竹 成樹

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図書館からのお知らせ

 特別展「図書館の自由に関する宣言」(『図書館戦争-THE LAST MISSION-公開記念』)を開催します。

 図書館理念の指針となっている「図書館の自由に関する宣言」。今回関連する資料を展示し、改めて「図書館の自由」について考えます。
 また、この宣言をもとに著された小説『図書館戦争』が映画化されています。その最新作は宮城県図書館でもロケが行われました。その模様なども併せて展示します。

●日  時  :9月4日(金)~11月27日(金) 開館日の午前9時から午後5時まで
●場  所  :宮城県図書館2階 展示室

宮城県図書館長による教養講座を開催します。

 宮城県図書館では、千葉宇京館長による館長講座を開催します。受講は無料です。事前にホームページの申込フォームまたは館内各カウンターに備え付けの申込書にて、受講をお申し込みください。

●日  時  :平成27年10月10日(土) 午後1時30分~午後2時30分
●場  所  :宮城県図書館2階 ホール養賢堂


「みやぎ県民大学」連続講座を開催します。

 宮城県では、県内の専門的な教育機能を地域社会に開放し、県民のみなさんへ学びの機会を提供しています。県図書館では、「叡智の杜をたずねて」と題して、本館(及び公文書館)所蔵資料のうち、特に宮城県に関連が深い資料等をもとに、職員が得た知識や情報をわかりやすく紹介します。

●日  時  :9月5日(土)、9月12日(土)、9月26日(土)、10月3日(土)午後1時30分~午後3時
●場  所  :宮城県図書館2階 ホール養賢堂  

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この「ことばのうみ」テキスト版は,音声読み上げに配慮して,内容の一部を修正しています。
特に,句読点は音声読み上げのときの区切りになるため,通常は不要な文末等にも付与しています。
「ことばのうみ」は,宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第52号 2015年9月発行。

宮城県図書館

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宮城県仙台市泉区紫山1-1-1

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