宮城県図書館だより「ことばのうみ」第41号 2012年9月発行 テキスト版
おもな記事。
- 巻頭エッセイ 「文化の指標」 歌人 小池光さん。
- 特集 東日本大震災文庫を公開しました。
- 県図トピックス。
- 叡智の杜レポート。
- 図書館 around the みやぎ 。
- 図書館員から読書のすすめ。
- 図書館からのお知らせ。
巻頭エッセイ 「文化の指標」 歌人 小池光。
数年前,ある新聞に毎週日曜日「うたの動物記」というコラムを連載した。短歌,俳句,自由詩などから特定の動物をうたったものを取り上げ,紹介,鑑賞する趣向である。 いきなり鑑賞に入ったのではつまらないから,その前にその動物についてあまり人の知らなそうなことについて書くことにした。
この時,地元の図書館に通って調べた。
「馬」「猫」「蜂」「ツバメ」— — — などについて該当しそうな本を机に積み上げて猛烈な速度でナナメに読んでゆく。すると,思いもかけないところに思いもかけないことが書いてあって, これは使える,と思わず膝をたたいたりした。図書館がなかったら到底できない仕事であった。
図書館は,夏は涼しく,冬は暖かい。エチケットを守る限りはいつまでいても誰も文句を言わない。それでいて全くの無料である。 こんな恵まれた環境は,他の施設ではなかなか見当たらないだろう。町々にある図書館は,文化というものが具体的にどうあらわれて我々の生活を彩りふかいものにしているか, その指標である。
著者のご紹介。
小池光
こいけ・ひかる。1947年、宮城県柴田町生まれ。歌人。東北大学理学部大学院修了。学生時代から短歌の創作を始め、1972年「短歌人」に入会。1979年『バルサの翼』で現代歌人協会賞、 1995年『草の庭』で寺山修司短歌賞、2005年『滴滴集』で斎藤茂吉短歌文学賞、2006年『時のめぐりに』で迢空賞、2011年『山鳩集』で小野市詩歌文学賞、 2012年『うたの動物記』で日本エッセイストクラブ賞など受賞多数。2007年4月から仙台文学館館長。
特集 東日本大震災文庫を公開しました。−記憶を 記録に 未来へ−
宮城県図書館では,震災復旧工事終了後の7月3日の再開館後に併せて3階東側新聞・雑誌室の一画に「東日本大震災文庫」を公開しました。
書店で購入できる図書はもちろん,県内各自治体や病院,学校などの各機関や個人の方からご寄贈いただいた東日本大震災に関する資料が並んでいます。
今回の特集では,この「東日本大震災文庫」をご紹介します。
「東日本大震災文庫」とは
平成23年3月11日に発生した,東日本大震災に関する資料を広く収集・整理して,県民の皆様にご利用いただき,これからの防災対策や災害復興に役立ててもらう ために公開したものです。ここに集められている資料としては,図書や雑誌以外に一枚のチラシ,掲示物,ミニコミ紙など,当時をそのまま伝える資料も含まれています。 それらのひとつひとつが,この未曾有の災害の生々しい記録であり,貴重な資料です。今後同じような被害を繰り返さないことを願いながら,被災地の県立図書館として, 資料の中に込められた様々な想い・記憶を「記録」として末永く後世に伝える役目を担っています
何を広く集めているのか
東日本大震災をテーマとした様々な分野の資料を集めています。具体的には,販売されている図書・雑誌はもとより,宮城県や県内各自治体及び関係機関による当時の被災状況, 各方面からの支援活動の様子がまとめられたもの,また,ライフラインをはじめとした,各分野で復旧・復興が進められていく過程がまとめられた行政資料も収集しています。 その他,教育関係機関の資料集・広報誌・被災後に行われた学校行事関係の資料なども後世に伝えるべき資料として集めています。
これらの印刷された資料以外にも,震災直後の手書きの掲示物があります。電気・電話が使えない状況下でのライフラインに関する情報などから当時の緊迫した生活を 読み取ることができます。他にも避難所で掲示された壁新聞などの貴重な資料が集まっており,これらの資料からは,少しずつ復興の兆しが芽生えている様子がうかがえます。
このような資料をぜひ直接手に取ってご覧いただき,ご活用いただければ幸いです。資料数は平成24年7月末現在で,主な資料として図書は646冊,新聞27種, 雑誌は68タイトル459冊となっています。
ご利用いただくために
「東日本大震災文庫」で所蔵している資料にはここにしかないものも含まれておりますので,ご利用は館内のみでお願いいたします。
なお,貸出可能なものは,同じ3階中央貸出カウンター前の書架にご用意していますので,こちらをご利用ください。
震災関連資料の寄贈のお願い
今後も様々な震災に関連する資料が刊行されると思います。当館ではこれからも,東日本大震災の記憶を風化させることのないように,広く震災の記録を集めてまいります。 この震災の記録を後世に末永く残していくためにも,多くの皆様から関連資料をご寄贈くださいますよう,ご協力お願いいたします。
収集部数 可能であれば3部の寄贈をお願いします。(電子データは1部で結構です。)
寄贈方法 ご持参いただくか,下記送付先にお送り下さい。郵送の場合,送料はご負担いただきますようお願いいたします。なお,ご寄贈の際は, 「東日本大震災関係資料送付書」(本館ホームページからダウンロード可)を記入し,資料と合わせて送付願います。
送付先 〒981−3205 宮城県仙台市泉区紫山1−1−1 宮城県図書館 震災文庫整備チーム
東日本大震災文庫に関するお問い合わせ先 宮城県図書館 震災文庫整備チーム
TEL 022−377−8498 FAX 022−377−8492
e-mail librarysb@pref.miyagi.jp
県図トピックス 地域情報発信コーナーが移転しました。
5月まで当館2階にありました「地域情報発信室」は,平成25年4月予定の公文書館移転に伴い,名称を「地域情報発信コーナー」と改め, 1階西側「音と映像のフロア」内に移転しました。
このコーナーでは,県内各市町村の広報誌や観光連盟で発行しているパンフレット,博物館や美術館などで開催中の企画展のチラシやポスターの他, 各市民センターの月間予定表などを置いています。その他,大学の講演会やNPO関係のチラシも置いています。
出入口のすぐ横という皆さんの目に留まりやすい場所に移転したことで,今まで以上に多くの方に気軽にご利用いただけるようになりました。
これからも県内の地域情報や生涯学習関係の情報などを中心に、広く皆さんに発信していきたいと思いますので,どうぞご利用ください。
叡智の杜レポート 移動展示「図書館の復旧・復興支援〜県図書館の役割〜」パネル展
平成24年8月17日から8月31日まで,宮城県庁行政庁舎2階壁面(両面)に当館所蔵の展示パネル25枚を展示しました。
これらのパネルは東日本大震災により大きな被害を受けた名取市図書館と南三陸町図書館に対しての支援活動などについてまとめたもので,平成24年2月11日から5月31日ま で当館2階展示室で開催していた特別展「絆の証し−東日本大震災文庫展−」で展示したものです。
この特別展は県内外を問わずたくさんの方にご覧いただき,展示室に常置しておいたノートにも,多くの感想が寄せられ好評を得ました。 今回はさらに多くの皆様にご覧いただきたいということで,特別展で展示したもののうち「図書館の復旧・復興支援〜県図書館の役割〜」のパネルを宮城県庁に展示することにいたしました。
このパネル展によって,被災地の実情とともに,公共図書館や各種関係団体との間に生まれた「強い絆・繋がり」を知っていただけたのではないかと思います。
図書館 around the みやぎ シリーズ第34回 女川つながる図書館
女川町教育委員会生涯学習課長 佐藤誠一
平成23年3月11日,大きな地鳴りとともに震度6弱の長い横揺れ,数十分後の高さ20メートル近くの大津波が女川町を襲って来ました。
私自身も役場庁舎屋上の塔台に避難し,町職員と避難住民約70人が九死に一生を得て,ふと正面の5階建て町生涯教育センターを見ると, 銅板の屋根にまで大津波が押し寄せてきました。センター職員と避難住民は絶望と思われましたが,結果的に5階ボイラー室に避難していた28人は, 全員無事と確認でき,その時の安堵感と感動は,今でも鮮明に記憶しています。
この東日本大震災の地震・大津波により,町生涯教育センターは全壊し,3階の図書室と蔵書約40,000冊と各種資料が全て流失してしまいました。
女川の町も壊滅状態で,まずは生き残った住民の水と食糧の確保,発電機による電気の確保等々,3月中は,生きることで精いっぱいでした。
4月に入ると,全国各地から子どもの本を中心に多くの支援をいただき,この本を生かす工夫が求められたことから,多くの支援団体協力のもと, 整理し,5月10日に女川二小オープンスペースに約4,500冊の蔵書で「女川ちゃっこい絵本館」を開設しました。小学校低学年や親子を中心に利用が始まり, 現在まで,憩いの空間としてその役割を果たしています。
11月9日に総合体育館や勤労青少年センター等の指定避難所が完全閉鎖されたことに伴い,勤労青少年センター2階の図書室や講習室,集会室を改良し, 県図書館等の支援をいただきながら,「女川つながる図書館」構想実現に向け,支援蔵書のデータ登録や書架等の備品の納入等々,諸準備を経て, 平成24年3月23日に支援蔵書約20,000冊で,開館に至りました。
「つながる図書館」は,町民の要望から,子どもの絵本ゾーンと一般本コーナーと分けてスタートし,コンセプトは,全国・世界のみなさんとつながった図書館という意味と, 今後もつながっていきたい,ということから命名しました。
本町の図書館教育は,この「つながる図書館」や「ちゃっこい絵本館」,そして,4月からスタートした近畿大学様から寄贈されたバスによる「移動図書館」 を最大限に生かしたプログラムを推進し,できることから実行し,女川町復興計画にある女川町図書館建設開館まで,継続して図書サービスに努めていきたいと捉えています。
女川図書室(愛称;女川つながる図書館)の概要
蔵書冊数/絵本 約 5,000冊
一般図書 約15,000冊
開館時間/午前9時〜午後5時
休 館 日/月曜日、年末年始、その他教育長が認めた日(図書の整理期間等)
住 所/〒986−2243 牡鹿郡女川町鷲神浜字荒立84−2(女川町勤労青少年センター2F)
TEL/0225−54−3181
FAX/0225−54−3181
○PRポイント 絵本の部屋が独立していて、質、量とも充実している
図書館員から読書のすすめ
「直木賞作家の作品を読もう」という言葉につれられて 企画協力班 高橋和博
宮城県図書館には昨年度から勤めていますが,図書館という職場で働いていると「図書館の職員だとやはり本を読みますか?」とか「どんな本が面白いですか?」 といった質問をよくされます。
しかし,そのような質問はされるもののこれまで漫画本やスポーツ雑誌などは読むことはありましたが,小説のように“活字だけ”の本に 関しては読む習慣はほとんどと言っていい程ありませんでした。
「図書館に勤務することになったのも何かの縁だし,ためしに1冊小説でも読んでみるか」と思い手に取ったのが,伊坂幸太郎さんの作品です。 仙台在住の有名な作家さんであり,学生時代に友人が伊坂さんの作品を読みあさっていたのを思い出したのがきっかけでした。何気なく手にした1冊ですが, 読み終えて瞬く間に虜となり,気がつけば本屋で別の作品を購入していました。
伊坂さんの作品を一通り読み終え,他にも何人かの作家さんの作品も読みましたが,今,はまっているのが,今回私の1冊として紹介する奥田英朗(おくだ ひでお)さんの作品です。 タイトルは『空中ブランコ』。朝,3階の書架整理をしている時に,たまたま目に入ったこと,近所の本屋で「直木賞作家の作品を読もう」というコーナーがあり, そこに山積みに置いてあったということで手に取った1冊です。この小説は短編集であり,全5話から成り立っています。それぞれの話の登場人物は様々な悩みを抱え, 伊良部神経外科のドアを叩きます。しかし,この小説の主人公である精神科医の伊良部一郎はとても医者とは思えない変わった性格の持ち主であり, みなその言動に翻弄されていきますが最後には・・・。
奥田さんの作品を読んで思ったことは「人物描写が巧みである」ということです。先に紹介した『空中ブランコ』の伊良部一郎もそうですが『サウスバウンド』では破天荒でめちゃくちゃなキャラクターの父親が登場します。 今回紹介した作品以外にもおすすめのものはたくさんありますので,是非手に取って読んでみてはいかがでしょうか?
[こんな本を選びました]
『最悪』
奥田英朗著 (講談社/講談社文庫)
『オリンピックの身代金』
奥田英朗著 (角川書店/角川文庫)
『ゴールデンスランバー』
伊坂幸太郎 (新潮社/新潮文庫)
『砂漠』
伊坂幸太郎(実業之日本社/新潮文庫)
図書館からのお知らせ
特別展「復興の道標−東日本大震災文庫点Ⅲ−」を開催中です。
東日本大震災からおよそ一年半が経過する現在の,県内の各産業や地域の復旧,復興の様子を紹介します。甚大な被害を受けながらも, 復興に向けてさまざまな取り組みを行っている地方自治体,企業,人々の姿を,宮城県の震災復興計画の概要や,当館の東日本大震災文庫に所蔵されている資料など, 多様な資料からとらえます。
併せて,およそ一か月にわたる災害復旧工事のための休館中,宮城県図書館が県内公共図書館等に対して行った支援活動の様子も紹介いたします。
○期 間:平成24年9月7日(金)から平成24年11月25日(日)まで
○時 間:図書館開館日の午前9時から午後5時まで
○場 所:図書館2階 展示室
○内 容:第一部 宮城県の震災復興計画
・宮城県震災復興計画を中心に,宮城県が目標とする復興のありかたなどを紹介します。
第二部 復興の道標
・農業,水産業,伝統芸能などの分野における,県内各企業などの復興の様子を紹介します。
第三部 宮城県図書館の役割
・災害復旧工事による休館中に実施した,県内公共図書館への業務支援を紹介 します。
○お問い合わせ:企画協力班(1階) TEL:022−377−8444
平成24年度みやぎ県民大学「叡智の杜を訪ねて」を開催します。
図書館が持つ多彩で豊富な所蔵資料等をもとに、職員がテーマに沿ってわかりやすく講義します。
○日 時:11月3日(土),11月10日(土),11月17日(土),11月24日(土) 午後1時30分から午後3時まで
○対 象:県内にお住まいの18歳以上の方 50名
○場 所:宮城県図書館2階ホール養賢堂
○受講料:無料
○受講者募集期間:10月2日(火)から11月2日(金)
○お問い合わせ・申込み:企画協力班(1階)TEL:022−377−8444 FAX:022−377−8484
この「ことばのうみ」テキスト版は,音声読み上げに配慮して,内容の一部を修正しています。
特に,句読点は音声読み上げのときの区切りになるため,通常は不要な文末等にも付与しています。
「ことばのうみ」は,宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第41号 2012年9月発行。