宮城県図書館だより「ことばのうみ」第18号 2005年3月発行 テキスト版

おもな記事。

  1. 表紙の写真。
  2. 巻頭エッセイ「たゆたう空間」作家 熊谷達也さん。
  3. 特集「もっと近くで借りられるんです 図書館ネットワークを利用しよう!」。
  4. 図書館 around the みやぎ 多賀城市立図書館。
  5. 時空をこえて 貴重書の世界 「初めて世界一周した日本人 環海異聞」。
  6. 読書推進講演会 講師・作家 伊集院静氏。

表紙の写真。

 今回の写真は、平成16年度に行った展示室での企画展のポスター8枚の写真です。写真には以下の説明文があります。
「職員の自主企画展を開催」場所:宮城県図書館 2階 展示室 今年度から新たな試みとして、職員が日常業務から得た知識や研究成果などを提供する自主企画展を開催しています。おおよそ1か月ごとに入れ替えしておりますので、ぜひご覧ください。

▲ページの先頭へ戻る。

巻頭エッセイ「たゆたう空間」作家 熊谷達也さん。

   困ったときのなんとか、ではないのですが、最近の私にとって、図書館は必要な資料を探す際の、最後の砦になっています。実際、何度となく助けられました。いまやインターネット上にはさまざまな情報があふれていますが、内容がどれだけ確かなものかとなると、紙に書かれた情報のほうが、まだ一歩も二歩も信用度が高いように思います。
 こうした場合に重宝する図書館ではあるのですが、逆にいうと、いまの私はそれ以外の目的で図書館へ足を運ぶことが、ほとんどなくなってしまいました。これは、とても寂しいことです。子どものころは、毎日のように学校や町の図書館へ寄って、面白そうな本はないかなあと、まるでジャングルのような書架の間を行ったり来たりしていました。そして、ピピッときた本を借りてきてページをめくるのは、とても幸せなひとときでした。
図書館という時間がたゆたう空間に、たまには浸ってみようかなあと思います。

著者のご紹介

 くまがい・たつや。作家、1958年仙台市生まれ。中学校教員、保険代理店業を経て、1997年『ウエンカムイの爪』(集英社)で第10回小説すばる新人賞を受賞し作家に専念。2000年『漂白の牙』(集英社)で第19回新田次郎賞受賞。2004年『邂逅の森』(文藝春秋)で第17回山本周五郎賞と第131回直木賞のダブル受賞。近刊に『モビィ・ドール』(集英社) などがある。

▲ページの先頭へ戻る。

特集「もっと近くで借りられるんです 図書館ネットワークを利用しよう!」。

 「県図書館の本を利用したいのですが遠くてなかなか来館できませ・・・」「必要な資料が普段利用している近くの図書館になくて・・・」皆さんはこのような思いをしたことはありますか?ではこんな時、次のようなことができることはご存知でしょうか?
1 お近くの図書館や公民館図書室からも県図書館の資料を利用することができます。
2 お近くの図書館にない本でも、調べて他市町立図書館にあれば利用することができます。
3 県内の図書館で見つからない本は、県外の図書館からも取り寄せることができます。
これらのことを、相互貸借サービスといいます。宮城県では県図書館を中心に、図書館相互のつながり『図書館ネットワーク』を整備しています。
 では、実際にどのように利用すればよいのでしょうか?今回の特集では、実際のシーンを通して、このサービスをわかりやすく紹介します。

  1. 小牛田町に住む千葉さんは、いつも近くの小牛田町図書館を利用しています。
  2. 千葉さんは『りゅうぐうのおよめさん』の紙芝居を探しましたが、ないようです。図書館の草刈司書に相談してみます。
  3. さっそく県内図書館の蔵書を検索し、県図書館にあることを確認します。図書館ネットワークを利用した相互貸借を依頼します。
  4. 県図書館・相互貸借サービス担当の佐尾司書が依頼を受け、資料を探します。
  5. 『りゅうぐうのおよめさん』の紙芝居は、2階の子ども図書室にありました。
  6. 県図書館では、市町立図書館などから依頼があった資料を毎週協力車(※注)などで届けています。その準備をします。
  7. 巡回日の朝、たくさんの資料をのせた協力車が出発します。
  8. 小牛田町図書館に到着。草刈司書は千葉さんに紙芝居が届いたことを連絡します。
  9. 千葉さんが来館し貸出手続きをします。千葉さんも草刈司書も笑顔です!!

(※注)協力車とは? 県図書館と市町立図書館を結ぶ搬送車です。県図書館の職員が乗り、県内を巡回します。協力車は資料を運ぶだけでなく、市町立図書館から寄せられた調査依頼への回答、業務の相談・助言、情報交換などの役割を担っています。この他、宅配便を併用し搬送の迅速化を図っています。

相互貸借サービスや図書館について、お話しを伺いました。

利用者 千葉順子さん(小牛田町在住)
Q1 図書館は普段から利用していらっしゃいますか?
A1 週に一度くらい、家族で利用しています。
Q2 今回相互貸借のサービスを利用してみていかがでしたか?
A2 小牛田町図書館になかったのでダメかとがっかりしたところ、草刈さんに県図書館にあることを調べてもらい、それをこの小牛田町図書館で借りることができるとお聞きして驚きました。私が考えていたよりも早く届いたと思いました。
 今回は県図書館の資料でしたが、小牛田町図書館と同じ利用期間で借りることができるのもよかったと思います。本だけでなく、紙芝居・ビデオなども利用できますし、もっと活用したいなと感じました。
Q3 図書館を利用して感じることなどありますか?
A3 今はインターネットで自分で資料検索ができるようになっていたり大変便利ですが、やはりまだまだコンピュータに不慣れな方もいますし、環境が整っていないと利用できないことですので・・・。そういった意味で図書館は、知りたい情報をもっていない人の手助けができるところだと思うんです。今回のように、図書館の職員さんに相談してみてわかることも多くて、やっぱり最後は機械ではなく人 間だなぁと、人を介することの大切さを感じたりします。
小牛田町図書館職員 草刈明美 司書。
Q1 相互貸借サービスについて。
A1 図書館といっても、資料数はそれぞれの図書館によって限られています。以前、捕鯨について勉強している利用者がいました。最初は小牛田町図書館の資料で調べていましたが、そのうち県図書館の資料を、最終的には県外の図書館からも相互貸借を利用して資料を借りていました。自分に必要な情報であるひとつの種がだんだん大きくなっていき、相互貸借のサービスを利用して育っていった例だと思います。
 それから、以前、小牛田町内の小学校5年生のクラスで俳句の文集を作った時に、歳時記の本が本館の資料だけでは数が足りなくて相互貸借を利用して必要数を揃えました。このサービスの利用のしかたは様々ですが、目的の資料を手に取られた利用者の笑顔から「頼りにされている」とうれしく感じます。
Q2 図書館について。
A2 私がちょっと感じることなのですが・・・。小牛田町図書館は小牛田町民だけでなく、図書館がない近隣の町村の方も利用しています。相互貸借サービスを紹介する時、町内の方は他の図書館から資料を借りるということを臆せずに、いつもの利用と同じく当たり前のこととして申し込まれます。しかし、町外の方には恐縮したり遠慮する方が多いと感じます。その違いは、図書館というものが生活に密着しているかどうかではないでしょうか。図書館の存在に慣れていないのだと思うのです。
 どんな時に「図書館に行こう」と思いつきますか?冠婚葬祭のあいさつを調べたり、お子さんとおはなし会に参加したり、生活に密着していれば、とても親しい存在となります。
 小牛田町図書館を例にすれば、おはなし会は週2回ありますが、終了後は情報交換の場に早変わりです。館内には将棋盤をおいてありますが、大人と子どもが対戦していたりして世代を超えた交流の場になっています。近くに図書館がある環境をつくり、本を介してのコミュニケーションができると、住民にとって図書館が地域の情報広場になれるのではないでしょうか。これからも求められ、頼られ、親しまれる生活の中で息づいていく図書館でありたいと思います。
宮城県図書館職員 佐尾博基 司書。
Q1 相互貸借サービス利用上の注意点について
A1 宮城県図書館は、県内すべての方々が図書館のサービスを享受できるよう市町立図書館に対して支援を行っています。小牛田町図書館の例のように、身近な市町立図書館を通じて県図書館の資料を利用していただけることもそのひとつです。
 資料の所蔵状況やその時の貸出状況によっては、県内の他市町立図書館から資料を借り受けする場合もあり、これもそれぞれの図書館間でさかんに行われています。この場合、資料の返却も貸出を受けた市町立図書館にしていただく形になります。貸出された資料は、一部を除いて窓口となった図書館の貸出条件(貸出期間・冊数)で借りられます。お探しの資料が県内の図書館にない場合には、県外の図書館から借りることもできます(送料を負担していただく場合もあります。)
Q2 図書館について
A2 宮城県図書館では、図書館の設置や利用促進の気運を醸成することを目的として図書館振興講演会を県内各地で開催するなど、県内すべての市町村に図書館が設置され、さらにネットワークが広がることによってたくさんの方に利用されることを目指しています。身近な図書館を通じてさまざまな機能を理解していただき、図書館の魅力をより深く知ってもらえればすばらしいことだと思います。

▲ページの先頭へ戻る。

図書館 around the みやぎ シリーズ第13回 多賀城市立図書館 尾形陽子主幹。

  昭和53年6月1日、多賀城市立図書館は、宮城県内では一番最後の11番目の市立図書館として開館しました。同年7月には、移動図書館「さざんか号」が、本館から1kmを超える地域の巡回を開始、翌昭和54年には西部の山王地区公民館内に山王分室が、昭和55年には東部の大代地区公民館内に大代分室が開館し、多賀城市全域のサービス網が完成し、現在に至っております。
 その記念すべき開館の年、10月27日の河北新報に『図書館元年の秋−多賀城市立図書館の意味するもの』という記事が掲載されました。それは、当時仙台市民図書館館内奉仕係長の黒田一之氏が、昭和40年代先進的な活動をした日野市立図書館の成功が、隣接する地域へ広がったものの、どういうわけか「白河の関」をなかなか越えることができなかったのが、「・・・いまようやく遅い春が来て多賀城市に芽吹いたということなのだろう・・・」と多賀城市立図書館の開館がまさに東北の図書館元年であるという熱い期待を込めて書かれたものでした。
 それから年月を重ね、一昨年開館25周年を迎えました。建物は所々老朽化し、近年建設された図書館のように最新の設備を備えてはおりませんが、開館当時『本当の意味の図書館』と称された誇りを忘れずに、今もよりよい図書館を目指し、日々進化し続けております。

多賀城市立図書館のご紹介。

  • 開館時間 (本館)火曜日〜土曜日 午前9時〜午後5時まで。日曜日 午前10時〜午後4時まで。
    (分室)火曜日〜土曜日 午前11時〜午後5時まで。日曜日 午前11時〜午後4時まで。
  • 休館日 月曜日、祝日(月曜日が祝日のときはその翌日)、毎月末日(月曜日のときはその前日)、年末年始(12月28日〜1月4日まで)、特別整理期間。
  • 交通案内 JR仙石線・多賀城駅から徒歩15分。
  • 図書館のデータ。
    • 蔵書冊数 176,716冊(平成16年3月31日現在)。
    • 貸出冊数 345,025冊(平成15年度実績)。
  • 住所 〒985−0872 多賀城市伝上山1−1−6
  • 電話 022−367−1730。 FAX 022−367−1736。
  • ホームページ http://www1.bstream.jp/tagajo-lib/。
  • Eメール tagajo-lib@zeus.bstream.jp。

▲ページの先頭へ戻る。

時空をこえて 貴重書の世界 「初めて世界一周した日本人 環海異聞」。

 寛政5年(1793年)11月27日、若宮丸 は石巻港から仙台藩御用米を積んで江戸へ向け出発した。乗組員は16人。当時蝦夷地は、ロシアの南下によって緊迫していた。船は塩屋崎沖(いわき市)に差しかかったとき暴風雨に巻き込まれ舵を失い漂流、半年間の漂流の末アリューシャン列島に上陸した。異国生活の中である者は異国の土に化し、ある者は帰化した。12年後レザノフに連れられて長崎に帰国したのは4 人。江戸で藩主周宗に謁見した後、大槻玄沢に審問され、その後、それぞれの郷里寒風沢、室浜に向かった。結果として4人は初めて世界一周した日本人となったのである。大槻玄沢は、その聞き書きしたものに自身の博識な知見を補充して『環海異聞』として取りまとめた。これは当時のロシアの生活・文化を知るうえで大変貴重な資料である。

▲ページの先頭へ戻る。

読書推進講演会 講師・作家 伊集院静氏。

 平成16年11月13日、本館2階ホール養賢堂で、仙台市在住の直木賞作家・伊集院静氏をお招きして講演会を開催しました。これは昨年度より宮城県ゆかりの文学者に、本をテーマに講演していただき、多くの皆さまに読書の大切さを再認識していただく機会になればと開催しています。当日は約350人の聴衆を前に、『本を書く、本を読む』という演題で1時間ほどお話しをしていただきました。
 本を読むということについては、「読書というものは最後のページを閉じた時に、かわいそうな話だった、読んだら元気が出た、というような読んだ後に何があるか、ということが一番大切なのではないと考えています。もちろん読み切ることは大事ですが、読むという作業を続けていくのに、例えば今日は半ページしか読むことができなかったとしても、実はその半ページを読書した時間、本にきちんとした向かい方をした時間こそ一番大事なことなのです。」と話されました。その理由は、以下の書く側からのお話しから伺うことができます。「本を書くということは、結論のために書いているのではなく、一行一行を重ねていく作業のことであり、その作業の中に大事なものがあるのです。小説は〈この一行、という一文があれば他は目をつぶれ〉と言われる方もいます。一行一行書き綴っていきますが、〈この一行〉のために他の一行一行を書いているわけではありません。おぼろにある小説の行方、到達点のようなものを、暗い海で灯台を探すように一行一行を重ねていきます。書いている時は〈この一行〉は見えていないかもしれません。書き終えてからどうもこの一行らしい、と思ったりします。だから書いている側は何の変哲もない半ページに何時間、場合によっては何年という時間を費やしていて、その作家の魂が込められているのです。」他にも、伊集院氏の自伝的小説『海峡』と重なる幼少時代の思い出や、伊集院氏だからこそ聞ける米大リーグヤンキースの松井秀喜選手とのエピソードなども飛び出しました。仙台に移り住んでからの率直な感想など、時には冗談を交えながらのお話しに、来場された皆さんも笑顔で聞き入り、とても楽しい講演会となりました。

▲ページの先頭へ戻る。


この「ことばのうみ」テキスト版は、音声読み上げに配慮して、内容の一部を修正しています。
特に、句読点は音声読み上げのときの区切りになるため、通常は不要な文末等にも付与しています。

「ことばのうみ」は、宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第18号 2005年3月発行

宮城県図書館

〒981-3205

宮城県仙台市泉区紫山1-1-1

TEL:022-377-8441(代表) 

FAX:022-377-8484

kikaku(at)library.pref.miyagi.jp ※(at)は半角記号の@に置き換えてください。