宮城県図書館だより「ことばのうみ」第17号 2004年11月発行 テキスト版

おもな記事。

  1. 表紙の写真。
  2. 巻頭エッセイ「夜と言葉」作家 三浦明博さん。
  3. 特集「ぐるっと図書館アートの旅」。
  4. 図書館 around the みやぎ 蔵王町図書館。
  5. 時空をこえて 貴重書の世界 「斎藤和英大辞典」。
  6. 古典への誘い 県内の高校へ巡回展示。
  7. 図書館からのお知らせ 職員の自主企画展を開催。

表紙の写真。

 今回の写真は、平成16年8月21日(土曜日)に宮城県図書館 2階 ホール養賢堂で行われた『星乃ミミナ・愛と夢のコンサート』の写真です。星乃ミミナさんの歌と手話にあわせて、会場のみなさんが歌いながら、両の手のひらを上に向けて広げている様子が写っています。

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巻頭エッセイ「夜と言葉」作家 三浦明博さん。

   夜、十一時に近い時刻、テーブルの上には酒が入ったグラス。たばこと灰皿、 そして一冊の本を用意する。小説でも随筆でも、その日その時読みたいものなら 何でも構わない。家族はすでに寝静まり、外からは物音も聞こえてこない。この中 に初めて出会う何かが待っているという期待に胸を膨らませつつ、最初のページ をめくる。
 仕事ではなく、純粋な愉しみとして本を読む。これは自分の中でもっとも長く 続いている習慣の一つだ。もちろん昼食時にも本を持っていく。食べながら読む のは行儀が悪いとわかってはいるが、癖になっていてやめられない。
 それでも自分の中で、読書はなぜか夜の世界に属している。太陽は肉体と結び つき、月は空想を支配する。理由は判然としないが、そう考えているふしがある。 暗くて静かなほうが、言葉はより深く沁みる。そんな思い込みがどこかにあるの かもしれない。

著者のご紹介

 みうら・あきひろ。作家、コピーライター。1959年宮城県生まれ。明治大学商学部卒業。仙台市内の広告制作会社に勤務した後、1989年に独立。 2002年、仙台市内の東照宮を舞台とした『滅びのモノクローム』(講談社) で第48回江戸川乱歩賞受賞。近刊に『死水』(講談社)がある。

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特集「ぐるっと図書館アートの旅」。

  一般的に、アート(美術作品)は美術館などに置かれるもの・鑑賞されるものと考えてしまいがちです。今回の特集は、宮城県図書館の建物の機能の一部となっていたり景観を整えるものとして存在するアートをご紹介します。アートディレクター北川フラムさんプロデュースのもとに世界で活躍している6人のアーティストが参加し、周囲の環境や特徴をいかしたアートをつくりあげました。図書館をぐるっとまわって、その6人の素晴らしい作品をめぐる旅をご案内しましょう。

川俣 正/Tadashi Kawamata(日本)作『書見の道』。
 図書館の目の前にある鬱蒼とした森。そこには枕木を敷いた小道が あり、東屋が点在しています。北海道生まれである川俣さんが、自 然の中に「公園としての図書館」というイメージをふくらませました。 地形広場につながる木々に囲まれた敷地全体がアートとなっています。
ジョゼ・デ・ギマラエス/ Jose de Guimaraes(ポルトガル)作<案内板アート(サイン)>。
子ども図書室の大きな案内板をはじめ、図書館の各表 示には絵本からとびだしたような楽しい絵が描かれて います。これは図書館という空間を舞台に1つの物語 を創造し、その登場人物や場面が建築の案内役として 館内外に展開されている作品です。この明るい色彩は、 ギマラエスさんが28歳頃から7年間アフリカの風土に ふれてきた影響によるものかもしれません。
ベルナール・ブネ/Bernar Venet(フランス)作『88.5゜ARC(88.5度の弧)』H10000×W460×D460mm。
 正面エントランス広場に設置された「宮城県図書館」の館名を表示する塔です。ブネさんの作品には2つのパターンがあり、1つは機械的で正確な円弧、もう1つはまっすぐな角棒をぐるぐる巻いて輪にしたものです。図書館の作品は前者にあてはまる円弧状の塔で、円弧の角度88.5度が刻まれています。
ジョセフ・コスース/ Joseph Kosuth(アメリカ)作『Twice Defined(二重の定義)』H200×W41300×D100mm。
地形広場の壁面に、日本語と英語の言葉が並んでいます。これは、大槻文彦の初版『言海』(1891年)、ウェブスターの『簡明英語辞典』(1806年)、近代日本とアメリカの最初の国語辞典が共有する単語の中から、図書館という空間にあうものを選び作品として完成させたものです。東西の言語が、ことばの海の水平線のように、歴史的・具体的につながっていくアートになりました。
ジャン・フランソワ・ブラン/ Jean Francois Brun(フランス)作『Les percees du jour (1日の始まり)』H3500×W800×D300mm。
 駐車場のポール状の照明は、夕方になると青や緑の灯りがともります。これは駐車場を庭園に見立てて歩道に沿って照明灯を並べ、自然を施設に映しこむイメー ジのアートです。なお、図書館前の歩道(バス通り)の足下の埋設照明(直径254mm)は『Les miroirs duciel(空を映す鏡)』と題され、自然をシャープに切り取った写真のイメージが浮かびあがる同じブランさんの作品です。
メナシェ・カディシュマン/ Menashe Kadishman(イスラエル)作『Kissing Birds(キッシング バード)』H4000×W2000mm。
 正面入口北側、笹でおおわれ草木が茂る小高い場所に見え隠れする2羽の鳥。この鉄板を使ったレリーフ作品は、設備配管を覆うスクリーンとしても機能するようデザイ ンされています。この切り絵のようなアートは、素材が鉄であるにもかかわらず温か みを感じさせる作品となっています。

2004年6月、館内外の案内板アート(サイン)の作者、ジョゼ・デ・ギマラエスさんが来館されました。

ギマラエスさんへ質問。
Q:サインは全体として物語になっているのですか?
A:history(歴史、物語)を表現しています。
Q:サインにはヘビがたくさん描かれていますが、どう してですか?
A:メソアメリカ(メキシコ高原からパナマ地峡にわた る地域)では、ヘビは生命のシンボルなのです。
Q:日本のほかにどんな国で仕事をしていますか?
メキシコ、マカオ(中国)、カナリア諸島(スペイン)、 ドイツなどです。
Q:宮城県図書館のほかに、日本でギマラエスさんの作 品を見ることができますか?
A:釧路市、秋田市、新潟県川西町、渋谷区代官山、立 川市、西宮市などに作品があります
ギマラエスさんからのメッセージ。
私が宮城県図書館のために作成した案内板のデザインを見て、訪れるすべての利用者の皆さんが、何らかのインスピレーションを感じられることを心より願っています。

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図書館 around the みやぎ シリーズ第12回 蔵王町立図書館 鹿島茂 館長。

  蔵王町は農業と観光を柱として町づくりを進めており、農 業は日本一の生産量を誇るツルムラサキや県内一の梨・桃な どの果樹類、高原地帯では酪農が盛んに行われています。観 光も蔵王のお釜をはじめ三階滝、蔵王ハートランド、みやぎ 蔵王えぼしスキー場、みやぎ蔵王こけし館、遠刈田温泉等観 光資源にも恵まれ、農業と観光の融和を図りながら町の活性 化を進めてきています。また、その一環として文化会館の入 り口では毎週土日にございん市を開催しており、町内産の果樹・ 野菜・たまご等を安価で販売しております。 蔵王町ふるさと文化会館は蔵王町の生涯学習の拠点として、 町民の多様なニーズに応えるため、「多目的ホール」、「図書館」、 「公民館」の機能を併せ持つ複合文化施設として、7月22日 にオープンいたしました。蔵王町立図書館の面積は約494㎡ で7月22日現在、蔵書数は、図書約27,000冊、視聴覚資料約 700点、雑誌約120誌、新聞9誌を揃えております。図書館の 内部は自然の光と木材をふんだんに取り入れ、安らぎを感じ られるよう設計されております。
開館時が夏休みということもあり、町民の皆様や他町村の 皆様に多数ご来館いただきました。今後も老若男女がいつで も集まれる図書館を目指していきたいと考えております。図 書館は町内の方はもちろん仙南2市7町の方々にも図書の貸 出が可能になっておりますので、蔵王町へ行楽等でおいでの 際は是非お立ち寄りください。

蔵王町立図書館のご紹介。

  • 開館時間 火曜日〜金曜日 午前10時から午後7時まで。  土曜日・祝日 午前10時から午後6時まで。
  • 休館日 月曜日(祝日の場合は翌日休館)、毎月末日、年末年始(12月29日〜1月3日まで)、特別整理期間。
  • 交通案内 宮城交通バス 蔵王町役場前下車 徒歩1分。
  • 図書館のデータ。
    • 蔵書冊数  資料数27,501冊(平成16年7月22日現在)。
  • 住所 〒989−0821 刈田郡蔵王町大字円田字西浦5
  • 電話 0224−33−2018。 FAX 0224−33−2019。
  • ホームページ なし。
  • Eメール toshokan@town.zao.miyagi.jp。

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時空をこえて 貴重書の世界 「斎藤和英大辞典」。

  昭和3年(1928年)に世に送り出された『斎藤和英大辞典』——。厚さ14cm、重さ 4kgに及ぶ大著で、見出し語約5万、例文約15万を収録している。その威容は当時 の類書を凌駕し、「枕版」と呼ばれたという。
著者、斎藤秀三郎(さいとう・ひでさぶろう/1866年−1929年)は仙台藩士、斎藤 永頼の子として仙台・堤通に生まれ、6歳から英語を学び始めた。工部大学校(現 在の東大工学部)を中退し、仙台に帰郷。18歳で最初の翻訳書『スウヰントン氏英 語学新式直訳』を出版した。明治20年(1887年)に「仙台英語学校」を開設、旧制二 高、旧制一高などでも教鞭を取った。教え子に土井晩翠、井上準之助、高山樗牛ら がいる。明治29年(1896年)に東京・神田錦町に「正則英語学校」を開き、以後、こ こが斎藤の英語教育・研究の拠点となった。
斎藤は、ただ一人で執筆したとされる『斎藤和英大辞典』の序文に「日本人の英 語は、ある意味において、日本化さるべきである」(原文は英語。訳は『斎藤秀三 郎伝』(大村喜吉 吾妻書房 1960年)による)と述べている。「武士は相身互い The samurai should feel for each other.」「負けるは勝ち Defeat is sometimes a moral victory.」などと、例文には数多くの慣用表現、都々逸、短歌や俳句等を用いており、 文化の融合に心を砕いた斎藤の心が、いまも鮮やかに伝わってくる。

本館は平成16年1月に斎藤秀三郎の研究者、出来成 訓氏(神奈川大学教授)から斎藤の著作など251点の 寄贈を受け、「出来文庫」として収蔵している。

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古典への誘い。

県内の高校へ巡回展示
  今年度から、『源氏物語絵巻』『おくのほそ道』など本館が 所蔵する古典文学の複製資料を、県内の高校を対象に巡回展 示する<古典への誘い>と題した事業を始めました。
最初に開催した宮城県第二女子高等学校では、一般の方に も公開し、生徒たちをはじめ多くの方にご覧いただきました。 熱心に見入っていた生徒たちは、「今、古典の授業でちょ うど源氏物語を勉強していて興味がわきました。県図書館ま では遠いので、学校にいながらにして見ることができるって いいですね。」「(資料を)手にとって見たりできるとは思わ なかったです。古典というものをとても身近に感じました。」 など、うれしそうに語ってくれました。
資料の展示場所となった図書室の司書の先生は、「古典と いうものを教科書という形でしか知らない生徒たちが、どの ような字で、どのような紙に書かれていたかを見ることができ、 大変有意義な展示となったのではないでしょうか。」と、生 徒たちの反応を肌で感じているようでした。

宮城県第二女子高等学校図書室で、資料を手に取り見入る生徒の写真があります。

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図書館からのお知らせ。

職員の自主企画展を開催。

 宮城県図書館では今年度から新たな試みとして、職員が日常業務から得た知識や研究成果などを提供する自主企画展を2階の展示室で開催しています。こ れからの予定は下記のとおりとなっております。ぜひ一度ご覧ください。
期間(予定) テーマ (予定)
平成16年11月6日〜12月2日 号外から見える世相
平成16年12月5日〜12月28日 文庫本の世界
平成17年1月6日〜2月3日 街頭紙芝居
平成17年2月6日〜3月19日(2月24日〜3月9日まで休館) 宮城の野球
平成17年3月24日〜4月2日 現代用語の基礎知識の変遷

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この「ことばのうみ」テキスト版は、音声読み上げに配慮して、内容の一部を修正しています。
特に、句読点は音声読み上げのときの区切りになるため、通常は不要な文末等にも付与しています。

「ことばのうみ」は、宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第17号 2004年11月発行

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