宮城県図書館だより「ことばのうみ」第68号 2021年1月発行 テキスト版
おもな記事
巻頭エッセイ『郷土の本を訪ねて』 アーティスト 瀬尾夏美
実を言うと、ふだんはあまり本を読まないわたしですが、旅先では図書館や本屋、古書店をめぐります。そこでかならず、「郷土」の棚を眺めます。そのまちの成り立ちを記した郷土史の本、地域の伝統行事や生活習慣についてまとめた本、戦争や災害の体験談、民話、伝説などを聞き書きした市民による手作りの本……。これらの本はたいてい遠方からでは手に入れにくく、そもそもその存在自体知る由もないものがほとんどですが、わたしは旅先でこういった本を手に取って、その土地で生きた人びとの営みを想像する準備をし、次に訪れる場所を考えたり、あるいは道中で聞いた話を反芻したりすることが好きです。そしてまた、何冊かの本を買い、自分の本棚に並べて、いくつもの土地で出会った人びとや風景と一緒に暮らしている気分になることも。
各地の記録に関わる本を読んでいると、その視点や形式、細かくは文体や調査方法などにおいて、共通点を見つけることがあります。それはおそらく、遠く離れた土地、異なる年代にあって直接的な関わりを持たない人びとが、それぞれに生活をする中で、どこか似たような切実さに向き合いながら、地域のあり方を考えたり、出来事や技術の“継承”を実践したりしているからでしょう。わたしはそういった先人たちの姿に励まされながら、いつか自分が書いた本が、誰かの旅や暮らしをもうすこしだけ豊かなものにできたらいいな、と想像しています。
著者紹介
瀬尾夏美(せお・なつみ)
東京都生まれ。土地の人びとのことばと風景の記録を考えながら、絵や文章をつくっている。著書に『あわいゆくころ 陸前高田、震災後を生きる』(晶文社)がある。
〈特集〉Withコロナ時代の図書館
発生が確認されてから、日本でも急速に感染者を増やしている新型コロナウイルス。2020年4月には緊急事態宣言もあり、県内の多くの図書館が臨時休館を余儀なくされました。状況はまだ緊迫しておりまさに厄災の渦中と言えますが、今回の特集では、これまでの宮城県図書館及び県内の市町村図書館の動きを振り返ります。
あらためて新型コロナウイルスとは
「新型コロナウイルス」はコロナウイルスのひとつです。ウイルスの表面にある突起が王冠に似ていることから、ギリシャ語で王冠を意味するコロナの名前がつきました。風邪の原因となるウイルスや「重症急性呼吸器症候群(SARS)」、2012年以降発生した「中東呼吸器症候群(MERS)」ウイルスもコロナウイルスの一種です。
まだまだ分からないことが多いウイルスですが、手洗い、マスク、ソーシャルディスタンスなどが、感染防止対策として有効と言われています。
これまでの宮城県図書館の動き
◆が宮城県図書館の動き
2020年
1月 WHO新型コロナウイルスを確認 日本で感染者確認
2月 クルーズ船でクラスター発生 宮城県内で感染者確認 県内の図書館で臨時休館の動き
3月 ◆サービスの一部休止(3日)
4月 国による緊急事態宣言発出 ◆臨時休館開始(18日)
5月 ◆開館時間を短縮し一部サービスを再開(12日)
6月 ◆開館時間の短縮を終了(2日)
7月 ◆フロアの立入制限を緩和(1日)
8月~◆ボランティア活動の全面再開(1日) ◆一部イベントの再開
県内の図書館で臨時休館の動き
・ 岩沼市民図書館、角田市図書館が2月29日から、利府町図書館が3月1日から臨時休館を決定
・ 県図書館HPで県内の図書館・公民館図書室の臨時休館情報を提供開始
宮城県図書館で臨時休館開始
・ 休館中も資料の返却や、音訳などの障害者サービスは継続
・ 来館せずに利用できるサービスや、デジタル資料をTwitterで紹介
宮城県図書館で開館時間を短縮し一部サービスを再開
・ カウンターに透明なシートを貼り、一部フロアを立入禁止にした上で開館
・ 利用者にもマスクの着用や、短時間での利用を呼びかけ
宮城県図書館で一部イベントの再開
・ 8月5日に行われた「図書館で星を見よう ―ベガ号天体観望会―」ブックトークの様子
・ イベント規模を縮小、参加者にもマスク着用・検温・MICAの登録をお願いし実施
Withコロナ時代の新しい図書館サービス
コロナウイルスの蔓延によって、未だに多くの図書館が短時間での利用を呼びかけるなど、利用を制限している状況です。そんな中、新しいサービスを試みた図書館もありました。宮城県内の図書館の、新しい取り組みをご紹介します。
プチおはなしよみ隊
大崎市図書館では、おはなし会の代替サービスとして「プチおはなしよみ隊」を始めました。感染症対策をした職員が、みなさまの隣でお好きな本をお読みします。受付は9:30~16:00、ひとり2冊程度、15分以内。
資料を取り置きします
白石市図書館では、国のコロナ支援事業を利用し、インターネットからの資料予約・取り置きサービスを導入しました。図書館での滞在時間を短くすることで感染リスクを下げるねらいがあります。
臨時休校中も電話で予約&貸出
石巻工業高校の学校図書館では、コロナで臨時休校した場合にも生徒が資料を利用できるよう電話で資料を予約し貸出するサービスを始めました。所蔵資料は図書館検索サイト「カーリル」で検索できます。
YouTubeで研修動画を配信
宮城県図書館では、県内の図書館職員等向けの研修会を年4回程度行っています。例年宮城県図書館を会場に開催していましたが、今年度はYouTubeなどを利用した動画配信を行い、多くの方々に受講していただきました。
今、読みたい文学
非日常の中で日常を生きる私たち。そんな私たちに寄り添い、揺さぶり、ときに突き放し、そして何より読書の楽しみを与えてくれる文学を、図書館員がセレクトしました。
『ピカピカのぎろちょん』 佐野美津男[著] あかね書房[刊]
町に突如現れたギロチン、バリケード、そしてすべての原因は「ピロピロ」らしい……。学生運動を背景に、多くの解決されない謎を残す伝説的なジュブナイル。コロナに翻弄される大人たちは、子どもたちの目にどう映っているのだろうと、ふと思う。
『白い病』 カレル・チャペック[著] 阿部賢一[訳] 岩波文庫/岩波書店[刊]
若者には感染しにくいなど、コロナを否が応でも想起させる「白い病」が流行する世界で、ワクチンを開発した町医者が世界を相手に持ちかけた取引とは。ジャーナリストの顔も持つ著者らしい戯曲の新訳。翻訳作業は緊急事態宣言の最中に進められた。
『シンドローム』 佐藤哲也[著] 福音館書店[刊]
火球が落ちたことをきっかけに、町が非日常へと姿を変えていく。でも高校生のぼくの心を掻き乱すのは、膨れ上がる自意識、そして後ろの席の久保田葉子のこと。コロナ禍でも、当たり前に狂おしい青春を送っている若者に捧げたい1冊。
『エセー』 ミシェル・ド・モンテーニュ[著] 宮下志朗[訳] 白水社[刊]
今なお我々の生き方に影響を与え続ける巨人モンテーニュが、宗教戦争やペストなど16世紀のフランスの諸相を背景に、徒然なるままに人間の姿を書き記した大著。非常事態に際して自分の人生を考えることも多かったこの1年、改めて読み返したい枕頭の書。
もう登録はおすみですか? MICA(ミカ)の登録にご協力ください!
宮城県図書館では、現在、新型コロナウイルス感染症拡大防止対策を講じながらサービスを行っています。宮城県図書館を利用される場合は、みやぎお知らせコロナアプリ(MICA)の登録にご協力願います。宮城県図書館でコロナ感染者が認められた場合に、感染情報を発信します。
図書館 around the みやぎ
シリーズ第60回 宮城教育大学附属図書館 宮城教育大学附属図書館長 中地 文(なかち あや)
当館は、教員養成を目的とした東北における唯一の単科教育大学である宮城教育大学の附属図書館であり、緑豊かな青葉山キャンパスの中央に位置しています。蔵書は教育関係資料が中心となっており、特に、戦前から現在に至るまでの教科書を多く所蔵しています。子どもへの理解を深めるための児童書や紙芝居を置いていることも特色です。日本初の公共図書館といわれる青柳館文庫の旧蔵書の一部を含む古典籍資料もあります。
資料を提供するだけでなく、小学校サイズの黒板を備えた模擬教室など、教員を目指す学生のためのアクティブスペースの提供も行っています。教育実習の時期には、仲間同士で集まり、教科書を参照して授業計画を立て、実践してみる学生の姿が多く見られます。また、大学院生や上級生による「学修サポーター」を館内に配置し、学修面での相談に応じてアドバイスをしたり、役立つ図書の紹介をしたりするなど、学修支援活動も行っています。その他、毎年教育や教科書に関する企画展も開催しています。
当館は、一般の方の利用も可能となっており、資料の貸出も行っています。現在は感染症予防のため予約制としておりますが、必要な資料がございましたらどうぞご利用ください。
宮城教育大学附属図書館
蔵書冊数/約38万冊
開館時間/9:00~22:00(土日は10:00~17:00)(大学の休業期間は平日9:00~17:00、土日休館)
休館日/祝日・年末年始・入試実施日
※感染症拡大防止のため学外の方の利用を制限しています。事前にホームページ等でご確認ください。
住所/〒980-0845
宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉149
TEL:022-214-3350 FAX:022-214-3351
図書館員から読書のすすめ
十二国記シリーズ『月の影 影の海』上・下 小野 不由美[著] 新潮文庫/新潮社[発行]
学生時代はいざ知らず、社会人になってからはなかなか読書から遠ざかり気味の自分ですが、「十二国記シリーズ」の新作が18年ぶりに発表されるという知らせに、慌てて実家から全巻回収して読み返しに時間を費やしました。
というわけで、私からは十二国記シリーズより『月の影 影の海』を紹介させていただきます。今作は作品の順番的にはシリーズの1作目ですが、シリーズの0作目にあたる『魔性の子』という作品もあり、ファンの間でもどの順番で読むべきか論争が巻き起こっていたりします(私は主人公視点での世界観の説明があるので読者が物語に入り込みやすい『月の影 影の海』から派)。
簡潔にあらすじを言ってしまうと、「現代で生きる少女が突然、異世界に放り込まれる」物語なのですが、ありきたりなファンタジー設定と思うなかれ。
現実から異世界に召喚されるファンタジーは、特別な能力を手に入れる、その世界の人々に必要とされる等のポジティブな変化が起こることが多い印象なのですが、この十二国記は違います。右も左もわからない未知の世界に主人公がたった一人、過酷な環境の中、文字通り生きるために戦うことが物語の主軸となります。正直、辛い場面も多く、読むのを諦めそうになるかもしれませんが、とりあえず「大きな鼠」が登場するまでは読んでいただきたい。「大きな鼠」が登場してしまえばこちらのものです。
ファンタジー作品は設定が練りに練られているものほど物語に没入しやすいと個人的に思っているのですが、この作品はまさに「本当は現実にこの世界が存在するのではないのだろうか」と疑ってしまうほど世界観がしっかりと作り込まれています。「ファンタジー作品は現実的でないので苦手です……」という人ほど触れて欲しい作品です。
他にもおすすめポイントは山ほどあるのですが、拙い私の説明ではネタバレになるのではないかとこの紹介文の筆もうまく進みません。助けてください。
繰り返しますが、まずは「大きな鼠」が登場するまで読んでみてください。「彼」が登場すればきっと、この言葉の意味が皆さんにも伝わるはずです。
企画管理部 総務班 牧野 優
図書館からのお知らせ INFORMATION
企画展『空襲・占領・復興─太平洋戦争と戦災復興の記録』を開催中です
平洋戦争の終戦から75年が経ちました。戦時中、宮城県内は空襲による被害を受けましたが、終戦直後から市街地の復興に取りかかりました。この間、日本は連合国軍の間接統治を受け、宮城県にも部隊が駐留しました。今回の企画展では、空襲、占領、復興の3つに焦点をあてて、公文書館が所蔵する公文書を紹介します。
●期間/令和2年11月28日(土)~令和3年2月21日(日)
●時間/図書館開館日の午前9時から午後5時まで
●場所/宮城県図書館2階展示室
地形広場がライトアップされました
10/23から12/25まで期間限定で、宮城県図書館の「地形広場」がPANORAさんによりライトアップされました。紅葉と相まった幻想的な雰囲気で、多くの方にご来場いただきました。
『震災文庫だより』を発行しました
東日本大震災発災から10年が経とうとしています。これまでに東日本大震災文庫で収集した資料や東日本大震災アーカイブ宮城で公開したコンテンツ、また現在行っている作業を広くお知らせするために、『震災文庫だより』を発行しました。館内で配布しておりますので、ぜひご覧ください。
この「ことばのうみ」テキスト版は,音声読み上げに配慮して,内容の一部を修正しています。
「ことばのうみ」は,宮城県図書館で編集・発行しています。
宮城県図書館だより「ことばのうみ」 第68号 2021年1月発行。